大会その2
『ちょっと外に出ますねー』
「はいよ」
そう言いながらヴェノミナーガさんは扉をすり抜けて行った。
珍しくヴェノミナーガさんが俺から離れているな。
こんだけ人がいるんだから知り合いの精霊でもいるんだろう。たぶん。
じゃ、カードの整理でも……。
『HEY! マスター!』
扉から出て行ったハズのヴェノミナーガさんが俺の座っているソファーの壁から生えてきた。
『Love letterは許さないからネ!』
「はよ行け」
『へぶしっ!』
俺は大成仏をヴェノミナーガさんの額へ投げつけた。
◇◆◇◆◇◆
その少年は唖然とした表情で、選手控え室のTVからリアルタイムで行われているデュエルを食い入るように見ていた。
『バトル、"仮面魔獣デス・ガーディウス"。ダーク・デストラクション』
『うわぁぁぁぁ!?』
LP
4000→0
デュエルを終えた彼は対戦相手を一瞥してから軽く溜め息をつくと、踵を返して歩き出す。
そこで中継は終わった。
「…………」
見終えた後も少年は暫くそこに佇んでいる。
見たこともない強力なレアカードを軸とした、繊細かつ大胆なタクティクス。
にも関わらず、根底は圧倒的な火力で相手を押し潰す戦法。
悔しいがその全てにおいて少年は自分の方が下だと直感的に理解していた。
そして、何より恐ろしいのは終始相手を手玉に取り続けた彼の手腕だろう。
わざわざ、相手に塩を贈るカードまで戦術に組み込む徹底ぶりだ。
どれをとっても一級。まるでプロデュエリストの試合を見ているようだったと少年は思っていた。
「勝てるのか……? 俺はあんな化け物に……」
少年が1勝すれば次に当たるのはリック・べネットその人だ。
少年には確実に勝つために兄から貸し出されたデッキがある。
「ムリだ……!」
兄のデッキではデス・ガーディウスに火力で勝てるモンスターが居なかった。
さらに倒せたとしてもモンスターのコントロールを奪われる。
少年の脳裏にはデス・ガーディウスの嘲笑うような笑い声が響いていた。
「くそっ……!」
少年は机に手を叩き付けた。
自分のデッキでもあのデッキに打ち勝つヴィジョンが浮かばない。八方塞がりという奴だ。
「こんなところで、俺は……」
「うぬは力が欲しいか?」
「うわぁっ!?」
突然、横から声を掛けられた事で少年はソファーから転げ落ちた。
「誰だ! 驚かすな!?」
少年が声の方向を見ると、青いようにも紫のようにも見える長髪をした少年と同年代ほどの綺麗な少女がニコニコしながらそこにいた。
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