ハーメルン
オーシャン・プレデター
第二話 海亀と怪人

「(あれは何なんだ? 霊体か? しかしそれらしい力は何も感じ取れないが・・・・・・)」

「散々好き勝手やってくれたな! 覚悟しろ!」

 彼らはエイドの指示を聞かぬうちに、一斉に敵に魔法を放とうとする。すると敵は攻撃が来る前に、甲板の上を走り出した。甲板の各所を動き回り、乗員達を撹乱する。

「くそ! どこだ!? どこにいる!」
「わかんねえよ! 暗い上に相手があれじゃ!」

 数十人の乗員たちが喚きながら、円陣を組んで四方八方に魔法を打ち込んだ。
 彼らは持っている魔法剣を突き出し、剣先から火球や雷撃など各々の得意な魔法を放っている。だがそのいずれも敵に命中することは無かった。
 敵は複数ではない。彼らはたった一体の何かに向けて、がむしゃらに攻撃を繰り出し続ける。物が風に揺れれば、乗員たちは即座に反応して、その方角に攻撃を仕掛ける。
 もちろん結果は空振りだった。

「ぐがぁ!」

 敵の攻撃は唐突に行われた。一人の乗員が背中から長い刃物で突き刺された。特殊金属の鎧は紙のように簡単に破られ、腹から生えてきた敵の得物は血で濡れていた。だが得物自体も透明化しており、得物の形がよく見えない。
 恐らくこれが船内にいる乗員を惨殺した凶器であろう。

「くそぉおおおっ!」

 乗員たちが敵に向けて一斉に魔法を放った。敵は突き刺した兵士を盾にしてその攻撃を受ける。
 十発以上の魔法攻撃を一度に受けたその地点に、船を揺らすほどの爆発が起きた。煙や破片が巻き起こり一瞬視界がゼロになる。

「冷静になれ! 船を沈める気か!?」

 エイドがそう叫んだ直後に、新たな犠牲者が出た。
 爆風で乗員たちが怯んでいる合間に、敵は即座に間合いを詰め、乗員の一人の首を刎ねたらしい。姿が見えないので何をされても“らしい”という表現しかできない。
 乗員たちは一斉に、敵がいると思われる方向に突進した。魔法の力で強化された光る剣身を次々と振るおうとする。

 するとまた青い光弾が放たれた。一人の乗員の身体が貫かれ、腹に大きな穴が開いて絶命する。

「(何ぃいい!?)」

 先程エイドが受けたものと全く同じ攻撃だったが、その攻撃を放ったのは眼前の敵では無かった。
 飛んできた方角を見ると、彼らの目上、船首の所に、今までいたものとは別の透明な人型が立っていた。何と敵は二体いたのである。

「(くそ! 敵は1人と思いこんで油断した! このままでは全滅だ。どうすれば・・・・・・)」

 二体目の敵から赤い照射光とともに、二撃目が放たれ、また乗員が一人犠牲となる。
 乗員達は慌てて敵に攻撃魔法を放とうとするが、その隙にもう一体の敵が乗員達の陣に斬り込んできた。乗員達が次々と腹や首を切り裂かれて死んでいく。もう一体も攻撃を止めない。

 遠近両方からの攻撃を受け、半狂乱になりながらも戦う乗員達は、次々と数を減らしていった
 船内への入り口近くにいた一人の乗員が、扉の向こうで隠れながら、力を込めて剣に魔力を込めていた。時間を掛けて大掛かりな魔法を放つつもりだ。
 標的は接近戦を仕掛けているもう一体の敵。今それを撃てば、戦っている仲間も巻き添えにすることになるが、彼は一向に構わなかった。

 力を溜め終えた乗員は、勢いよく扉を開け、敵に剣を向ける。だが敵はその気配をいち早く察知、魔法を溜めている乗員の方に顔を向く。

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