第三話 海の精霊
「さっきはすまなかった。私の名はエイド。エルダー王国海軍の者だ。君はこの島の者か?」
副艦長=エイド含む八人の兵士達は、眼前の半裸の少年の姿を物珍しげに見詰める。この海域には住人はいないとされていたため、この少年の存在は、かなり意外だった。
「俺の名前はルイだ。この辺りの海を縄張りにしている水の精霊だ」
「!? 精霊!?」
水の精霊、という言葉に一同は動揺した。人や動物の姿に具現化した精霊の存在は、一応知られてはいるものの、それに目撃したという情報は、ここ最近は全くといって良いほど無い。
彼らは基本的に人間との接触を嫌い、人間の住む土地にはまず住み着かないのだ。ただ最近、雷精霊の一種が、国内の各海岸に出没したという情報があるが、それが本物の精霊だという証拠はまだ出ていない。
一応この海域に精霊が居るという噂はあったが、そういうのは未開の地域にはありがちなので誰も信じていなかった。
「今度はこっちから聞くが、お前らは何者だい? こんな遠海に人間が来ること自体珍しいのに、更にあんなおかしな有様になってるし」
ルイと名乗った少年は動揺する兵士達に構わず、話の続きを始める。
エイド達はルイの言葉に信じられないとは思った。だが先程の見せた水の魔法から只者ではないと判断し、特に聞き返さずに質問に答える。
「・・・・そうか。ではお話ししましょう。と言っても、我々にも判らないことだらけなのですが・・・・。我々は海賊討伐の任を受けておりました。一月程前に、ある海賊の一団が、この辺りの海に逃げ込んだという情報があったんです。危険な魔獣を飼い慣らして、国を脅かしている厄介な奴らでして、それで精強の我々が出動したのだが・・・・」
「ああ、あいつのことか」
ルイはすぐに何かを思い出したかのような素振り見せて、答えを返す
「知っているので?」
「知ってるよ。船とその魔獣だけはな」
ルイの言い方に兵士達は怪訝な顔をする。
「十日ぐらい前だったかな。この海に船が一隻入り込んできたのさ。どこの船かなんて俺は判らなかったけど。あんまり関わりになりたくなくてしばらくは放っておいたんだが・・・・」
「何かあったので?」
ルイは首を横に振る。
「何もないから変だったんだよ。その船、それからずうっと動く気配が無かったんだ。ただ波に任せるままプカプカと浮いてるだけでさ、特に誰かに乗ってる様子も見えなかったし、ちょっと気になって近くに寄ってみたんだ」
「それで何が?」
「誰もいなかったよ。もぬけの殻さ」
「やはり全員殺されていたか・・・・」
“やはり”という言葉に気にかかりつつも、ルイは答えを続ける。
「殺されたかどうかは判らないさ。ほんと中には誰もいなかったんだから。甲板は荒らされてて血痕とかもチラホラあったけど、死体は何もなかったよ。中の方もほとんど誰もいない。荷物とかはそのままだったから略奪とかでもなさそうだった。まあ丁度良いから、中にあった酒とか金とか勝手に貰っていったけど」
精霊でありながらおかしな物に手を出す。精霊が酒を好むなどと聞いたことがない。伝わっている話では、人間の俗物を嫌っている印象があったのだが・・・・・・。
それはともかく、最初の船が無人だった話しには誰一人驚かなかった。今度はルイが質問を発した。
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