第十話 vsスターミー 欲への誘惑
俺たちがつながりの洞窟を抜けてヒワダタウンに着いたころにはすでに夜の9時を過ぎていた。
時間が時間であるために、街の散策・ならびにジムリーダーの捜査は明日行うとサツキさんと話して決めた。今日泊まるホテルを見つけた後はゆっくり食事を取って部屋へと戻る。
俺とサツキさん、二人とも同じ部屋に。――そう、同じ部屋に。
「~~♪」
「……」
「~♪~~♪」
「…………くッ!」
風呂場からはサツキさんの陽気な鼻歌がリズム良く聞こえてくる。少しでも思考を別のことへとまわしたいというのに、俺の努力をひたすら妨害するような行為だ。果たして彼女は壁一つはさんだ場所に思春期の男がいるということをわかっているのだろうか? まさか俺のことを男として認識していないとか、そういうことではないだろうな?
そもそもなぜこんなことになってしまったのか。
昨日泊まったキキョウシティのホテルでは二人とも部屋は別であった。しかしながら、マダツボミの塔で俺が約束の時間を破ってまで修行をしてきたことで、サツキさんの中での俺への信頼が薄れてしまったようだ。『もう勝手に抜け出さないように』、ということで二人とも同じ部屋に泊まることになったのだ。
……だがしかし、そういう理由がわかっていてもそれでも男として本能的に反応してしまうことがあるわけで。扉の先に裸でシャワーを浴びている理想的な女性がいるという事実を考えると……うん、精神的に毒だ。悪い意味ではなく、むしろ良い意味で。
「はあ……」
自然とため息がこぼれてくる。幸せがどれほど逃げることだろう。
そういう風に考えてしまう自分が嫌になってくる。ヒワダタウンのジムリーダーのことも考えたいというのに、このままではろくに先のことも考えられないので一度部屋から出て外の空気を吸いに行きたいのだが……それさえ許されないのだから困ったものだ。
俺は顔を上げて視線を部屋の出口へと向ける。出口に立ちふさがっている一匹のポケモンに向けて。
「…………」
「うん、詰んだなこれ」
一つしかない部屋の出口ではサツキさんのスターミーが待機していた。無言で俺に圧力をかけている。
サツキさんはスターミーに、『俺が部屋から出ようとした際には、怪我をしない程度ならば攻撃をしても構わない』と指示している。ゆえに部屋から出ようにも出られないのだ。少しでも不審な動きを見せたならば、俺は瞬く間に制圧されてしまうだろう。正直な話、さっきからスターミーがひたすら俺をにらみつけていて怖い。抜け出そうとしたら一体どんなことが起こるのか、想像することさえ恐ろしい。
……というかこいつ、本当に俺のことを監視しているんだよな? 今さらだが疑問に感じてしまう。
なにせスターミーは自分の感情を顔にださないので、こいつが一体どういう風に思っているのかさえわからない。一歩もその場から動かないがために、立ったまま寝ているのではないかと疑ってしまうほどだ。しかしだからこそ、何を考えているかわからないからこそなおさら恐怖を沸き立たせている。
「なあ、ピカチュウ」
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