第十一話 vsバタフリー 動き出す悪意
「……『特殊玉作成秘伝の書』じゃと? はて、一体君が何を言っているのかよくわからんのだが……」
「とぼけないでください、ガンテツさん。これでも私は真面目に話しています。それ以上とぼけるというのならば、私も少し聞き方を変えなければなりません」
ガンテツはさも知らないとばかりに呆けた声をだすが、それをサツキは許さない。声にはまるで戦闘時に放つかのような覇気が一時見受けられた。そのサツキの本気の様子を察し、ガンテツは静かにため息を吐く。
すでに確信を持った上での問い。こうなるとサツキはとことん深入りするだろう、ガンテツが自身の書に書かれている内容の全てを話すまでは……
――『特殊玉作成秘伝の書』。これはガンテツが、長年の月日をかけて磨いてきた己の技術を一冊の書に書き記したものである。その内容は市場に出されているような一般のモンスターボールとはまったく違った職人専用のものだ。作れる者もまた、今のところガンテツだけである。
ガンテツが自分が認めたトレーナーのみに託す特性のボール。『スピードボール』・『レベルボール』・『ルアーボール』・『ヘビーボール』・『ラブラブボール』・『フレンドボール』・『ムーンボール』。これら全ての特殊ボールの製法が記されている。ボールにはそれぞれ特殊な効果があり、ポケモンの捕獲の際にトレーナーの役にたってくれるだろう。
この書をガンテツは常に肌身離さずに持ち歩いていた。自分自身がこれまで築き上げてきた技術の流出を防ぐため、そしてなによりもその書に他のボールと共に書き込まれているとあるボールの存在を死守するために。
「……なぜ君がそれを求める? 書の内容を知ることで君は何かを得るのか?」
「はい。かつてここヒワダタウンのすぐ西に広がる森、“ウバメの森”で事件があったのはガンテツさんの耳にも聞き及んでいるでしょう。そのことで私も調査をしていたのですが……その地には伝説のポケモンの一匹が祀られているとわかりました。そして、そのポケモンを手にするためには“特殊なモンスターボール”が必要である”、ということも」
「……それで?」
「それならば、ガンテツさんほどの優れたボール職人ならば必ず情報の一つを握っていると考えました。特にあなたはご自身の職人としての技術を誰よりも誇りとし、そして弟子の一人もとらず秘密裏に隠している。
そしてあなたが常に持ち歩いている、誰にも見せることのない秘密の書。……ここまでくれば誰であろうと、自然と答えは出てくるでしょう」
――ガンテツは必ずや、サツキが求めている情報の答えを知っているだろう。
正論であるがゆえにガンテツは反論の言葉の一つも見つからない。出ようとした言葉は完全に身を潜め、再びため息を一つ吐いた。
ウバメの森で起こった事件のことはガンテツも良く知っている。地元の近くで人が襲われたのだ、知らないほうがむしろおかしい。しかも襲われたトレーナーの一人がつい先日会ったばかりの少年だというのだからなおさらだ。
そして、ウバメの森に伝わる伝説のことも同じだ。地元に古くから伝えられている伝説のポケモン、『ほこらの守り神』とさえ謳われているほどのポケモンだ。その情報については誰よりも知っているという自負がある。
そしてだからこそこうして困っている。……それを果たして今彼女に言って本当によいのかどうか、ガンテツの脳裏を一途の不安がよぎる。
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