第十六話 vsイーブイ 戦う理由
「……ある程度最悪の状況は想像していたのだけれど、これはその想像を上回るわね」
俺を一瞥し、さらに周囲の環境を見渡したサツキさんが苦々しく呟いた。その表情は未だに曇っており、今までの彼女の天真爛漫な笑顔は影を潜めている。
……それも当然の話か。
俺は先ほどの凍結によってすでに立ち上がるのも辛い状態だし、手持ちポケモンも同様だ。ピカチュウとピジョンはすでに戦闘不能、サンドも先ほど氷が解けたばかりで息も絶え絶え、捕まえたばかりのヘラクロスも全身に火傷によるダメージを受けている。
周囲の木々も一面凍りついており、ことの惨劇さを物語っていた。このようなこと、想像できるわけがない。まさか仮面の男がこれほどの力を持っていたなんて。……いや、こんな力の使い方をすることができるなんて、少なくとも俺は想像できなかった。
「好き勝手やってくれたようだけど……ここから先は、そうはさせない」
サツキさんはさらにスターミーとニドクインを繰り出し、敵を牽制している。皆臨戦態勢に入っていて、いつでも戦えるように身構えている。
「……なるほど。貴様が例の女か。話は聞いている。
できればこの場で排除しておきたいところではあるが……この場は引かせてもらおう」
しかし仮面の男はそれに応えない。
サツキさんとそのポケモンを見るや、戦闘をやめて身を翻した。
……あれほどの力を持っている人間が手出しさえせずに? それほどの力をサツキさんは持っているってことか?
「あら? 大組織・ロケット団を率いているような方が、女の子一人を目の前にして一戦も交えることなく逃げ出すのかしら?」
「らしくない挑発だな。死に損ないの雑魚を庇いながら私と戦えるとでも思っているのか?」
「……くっ!」
挑発に乗らず、淡々と相手は言葉を吐いた。
ここまで言われて何もできないのはさすがに腹が立つ! ……だけど、言い返す言葉もない。今の俺では、足でまとい以外の何者でもないのだから。ただ、歯を食いしばるしかなかった。
「安心しろ。そちらが手出ししなければ、こちらもこれ以上危害は加えない。
貴様とて一刻も早くその小僧を医療機関に連れて行きたいはずだ。……違うか?」
「……いいでしょう。ならば、早く私達の視界から消えて」
「ふん。言われるまでもない。……さらばだ、私に刃を向けた愚かな者達よ。
次に会った時は、今回のように上手く生き残れるとは思うな。私は躊躇しない」
交渉は成立した。
サツキさんが同意すると、仮面の男はデリバードに捕まって空を飛んでいく。おそらくは本拠地に戻るのだろう。
……戦いは終わったのか。やつの言うとおり、次こそは本当に生き残れるか心配だな。
「うぐっ!」
安心したせいか、痛みが戻ってきた。
……体が痛い。その上に、動かしにくい。
さきほどの氷漬けにされた影響か。体の感覚も、どこか変だ。長い時間受けていたわけではないとは言っても、弱っている体にあれは危険すぎたな。
「シュン君!? 大丈夫、しっかり!」
頭のほうからサツキさんの声が響く。……しかし、視界がぼやけて姿が見えない。
「ギャロップ、すぐにコガネシティまで向かうわ。急いで!」
俺をなんとかギャロップの体に乗らせて彼女もその体に乗ると、すぐに走らせる。
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