ハーメルン
ワカバの導き手
第八話 vsピカチュウ 過去の記憶

 ――――時は今から7年前にさかのぼる。
 カントー地方の一角、ニビシティにてちょっとした騒乱が起きていた。

「そっちに逃げたぞ! 追え!」
「絶対に逃がすな! これ以上被害を拡大させてたまるか!」

 街中を全速力で駆け巡る一体の小さなポケモン、そしてそのポケモンを目の敵として追いかける人々。
 逃げているのは黄色の体とねずみを思わせる体が特徴的なポケモン――ピカチュウだ。口元には食べ物を銜えている。
 本来ならば野生のピカチュウはトキワの森を生息地と定めて暮らしているのだが、このピカチュウはしばしば食べ物を求めて街へと現れることがあるのだ。今回もここニビシティに訪れ、街の商店街から食べ物をあさっていた。
 だがそんなところを多くのトレーナーに囲まれてしまい、いまや死に物狂いで逃げているところだ。

 人々は精一杯走り続けるものの、ピカチュウの自慢の速さを前に、一向に差がつまらない。
 このままでは逃がしてしまうと判断したのだろう、ポケモントレーナー達が次々と自分のポケモンをボールから繰り出した。

「マダツボミ、“はっぱカッター”!」
「ロコン、“ひのこ”だ!」

 放たれた技は標的のピカチュウ目掛けて突き進んでいく。
 当然のことながらピカチュウは回避を選択するものの、後ろからの攻撃には完全に対応しきれずに被弾してしまった。

「おお、やった!!」
「~~ッ!! ッカッ!」

 だが、それでも攻撃はピカチュウの足を止めるまでにはいたらなかった。ピカチュウは反撃とばかりに得意の電撃を――“でんきショック”を放つ。

「あががががっ!?」

 ポケモン達は回避したものの、トレーナー達は完全に油断しきっており、まともに電撃を浴びてしまった。彼らの意思に反し、体の強烈な痺れによって動くこともままならない。ポケモン達も自分の主人(トレーナー)が攻撃を受け、指示もままならないことによって戸惑っているようだ。

 追っ手を振り払ったことを確認して、ピカチュウは彼らを背に再び走り出した。彼の住みかであるトキワの森目掛けて。



「……ピィカ……」

 無事にニビシティを脱出し、トキワの森の中心部まで逃げる事ができた。ここまでくれば先ほどのニビシティの人達も追ってはこないということを確認し、ピカチュウは安堵の息を漏らす。
 しかし、体のほうはそうは言っていられない。先ほどの攻撃を受けたことで、体には切り傷ややけどのあとが見受けられた。ダメージが思った以上に残っており、逃げられたと安心した瞬間に力が抜けていく。自然に回復するにはかなりの時間を有することだろう。
 体を大きな木に預け、少し休むことにした。

「……しよう」
「……ピ?」
「ここは、一体どこなんだ……?」

 だが、突如人の声がピカチュウの耳に伝わってきた。声は一つ、話から察するに道に迷ってしまったようだ。
 このトキワの森は『天然の迷路』と呼ばれているほど複雑な地形であり、地理に詳しくない地元の人間以外の者が入ってしまうと中々抜け出すことはできない。この声の持ち主もおそらくは迷路を攻略できずにさまよっているはずだ。

 それならば先ほどのニビシティの人たちとは何の関係もないはず。ポケモントレーナーの可能性は否定できないものの、さほど警戒する必要はなくなる。元より今の状況では全力を出すことができないのだから。おそらく逃げることさえ危うい。

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