ハーメルン
ワールド・クロス
第九話

「はぁ…」

勇がアミタ達に説教されている頃、東京のとある広場にある噴水の周りに設置されたベンチに腰掛けて、真昼間から溜息をついている少女がいた。
キリエ・フローリアン。アミタの実妹で、とある目的のために異世界よりこの世界へとやってきたのだが…。

「これからどうしよ…」

その目的に必要な物の手がかりがなく、途方にくれていたのであった。
姉の制止を振り切り、勢いよく飛び出たまではいいが、その後のことは時間が無かったとはいえノープランであった。
だが、追いかけてきた姉に酷い仕打ちをしてしまったのだ、このまま手ぶらで帰るわけにはいかない。

「まずは、寝床を確保しないとなぁ。後はお金か…」

そう呟いて、可愛らしいカエルがプリントされたがま口財布を開けるキリエ。
幸い、自分のいた世界とこの世界の通貨が共通していたので、資金はまだ余裕があるが、活動するための拠点を確保しなければならない。
ここ数日は漫画喫茶と呼ばれる施設を利用している。だが、店員にも怪しまれてきているので、そろそろ限界だろう。
それに、あそこはドラゴ○ボールや北○の拳やら人を魅了する禁断の書物が多すぎる。決して夢中で読んでしまってなどいない。
資金も無限という訳ではない。どうにか収入を確保せねば最悪餓死してしまうだろう。

「はぁ…」

これからのことを考えると、憂鬱な気分になってしまう。いや、こういう時こそ気を強く持たねば!

「ねえねえ、カーノジョっ♪」
「今日ヒマ?今ヒマ?どっか行こうよ~」

自身を奮起させていたら、不意に声をかけられた。
顔を上げると、髪を染めいかにも軽薄さを感じさせる格好をした二人組の男だった。俗に言う遊人と呼ばれる部類の人間である。

「いえ、約束があるんで」

100%関わらない方がいいだろうと判断したキリエは、適当に嘘をついてその場を離れようと立ち上がる。
だが、逃がさまいと一人の男がキリエの進路を塞いできた。背後には噴水があるために逃げられなくなってしまう。

「えー、なになに?カレシィ?キミを待たせている奴なんてほっといて俺らと遊ぼうよぉ」
「そーそー。俺らの方が楽しませられるって」
「(ウザっ!)

明らかに下心丸出しの笑を浮かべて詰め寄ってくる二人組に、心の中で舌打ちするキリエ。
恋人なんて生まれてこのかたいやしない。昔姉と呼んだ絵本に描かれていた、白馬の王子様とお姫様に憧れたことはあるが、所詮自分は…。

「(やめやめ!)」

頭をよぎった嫌な思考を断ち切ると、どうやってこの場を切り抜けるかに集中する。
この程度の奴らなど簡単に蹴散らせるが、できるだけ騒ぎは起こしたくないので、穏便に切り抜けなくてはならない。
周りの人が助けてくれるのではないかと、視線を向けてみるも、皆一様に関わるまいと知らんぷりである。

「(ま、無理もないか)」

決して彼らを責めようなどとは思わない。誰でも自分の身が一番なのだ、厄介ごとには関わりたくないと思うのは当然である。
となると、自分でどうにかせねばならないが、彼らを口だけで追い返せそうもなかった。

「(お姉ちゃん…)」

ふと、姉の顔が思い浮かんできた。
やたら暑苦しくて、空回りすることが多く。どこか抜けているところがあるが、どんな時でも自分を守ってくれた自慢の姉だ。

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