ハーメルン
ワールド・クロス
第十七話

四月――
新たな始まりを告げる様に桜が咲き誇る中、俺は母校である”私立来禅学園”高等部の体育館にいた。
これから新たに高校生活を始める者達を歓迎する儀式。つまり入学式に参加している訳である。
用務員でしかない俺が参加する必要があるのかと思ったが、現在壇上にてスピーチを行っている、生徒会長の神堂慧理那にスピーチして欲しいとお願いされたのである。
神堂の背格好は小学生程だが、彼女の新入生に向けての歓迎のスピーチは、さながら歴史に名を馳せた偉人達の演説のごとく、圧倒的な求心力を纏ってその場にいる全ての者の胸を打っている。

『あなた達には無限の可能性があります。わたくしが、そして来禅学園高等部が、その輝く未来を開花させる道標となることを、約束しますわ』

見た目は幼さ全開だが、発せられる言葉には何の嫌味も無く。立ち姿一つ取っても、その凛とした華やかさに魅了される。

『では、最後に昨年度の卒業生であり、今年度からは用務員として勤務なさる天道勇さんからのお言葉を頂きたいと思います。それでは天道さん、壇上までどうぞ』

神堂の紹介に歓声と拍手が上がった。良くも悪くも来禅はノリがいいことで有名である。行事一つを取ってもここまでやるか?と言われるくらいの熱の入れようなのだ。だから、こういったサプライズは大歓迎なのだろう。
正直目立つのは嫌いなので勘弁してもらいたいのだが、ここまで来たらやるしかあるまい。
壇上まで上がると、神堂がマイクを渡してくれたので受け取り、彼女が下がるのを確認すると、正面の新入生へと向き合う。


「どうも。紹介に預かった天道勇だ。いきなりだが、お前達夢はあるか?まだ見つかっていない奴はこれから探してみろ。さっきの各部活のオリエンテーションにあった様に、この学校には色んな部活がある。一般的な部活は勿論、ギネスを目指す部、アイドルを愛でる部、果てはツチノコを探す部に女装部なんてのもある。在学時、女装部にはよくスカウトされたが、これはどうでもいいな。このように、普通の学校なら認められないであろう部活でも、条件さえみたせればOKなのがこの学校だ。さっき神堂が言ったように、この学校はお前達の夢を応援してくれる素晴らしい学校だと俺は思っている。仮入部期間も三ヶ月と長くあるし、一日でもいいから体験してみるといい、意外と思わぬ出会いがあるかもしれんぞ。ちなみに俺は家庭の事情もあって、部活には入らず助っ人的なことをやっていた。まあ、こうは言ったが、ここで無理に夢を見つけろとは言わん。三年間の中で見つけられない奴だって当然いる。それでも構わん!だが、この学校で過ごす日々を無駄にするな!ここで学んだことを糧に、未来へ羽ばたける様になってもらいたい!最後に俺は死ぬ時も笑っていたいと考えている、「ああ、いい人生だったな」と後悔の無い人生を歩める様に日々を生きている、お前達も一度しかない人生なんだ、どうせなら笑って過ごせ!以上!」

言い終えるのと同時に、体育館中から拍手喝采の嵐が巻き起こった。中には泣いている奴までおるがな…。
そんなこんなで入学式は幕を閉じるのであった。




入学式の後、神堂から「素晴らしいスピーチでした!やはり天道さんにお願いして正解でしたわ!」と感動しながら褒めてくれた。正直勢いで言ったのだが、役に立って何よりだ。
てなこんだで時間が経ち昼となったので、昼食のために食堂に来ていた。

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