16話「部活体験(後編)」
ギムナジウム横の小さな野原に並べられた幾つもの花壇。
白やピンク、黄、赤といった色鮮やかな花々が咲き乱れる中、小柄なフィーがしゃがみ込んで黙々と花壇に種を植えていた。──何を隠そうフィーは園芸部の一員なのである。
「フィーちゃん。種は植えられましたか?」
「ん、ちゃんと埋める深さも測った」
フィーに優しく問いかけて来た女性は園芸部部長のエーデルだ。
大きな麦わら帽子を被り、のほほんとした雰囲気を醸し出す彼女は、奇麗にならされたフィーの花壇を覗き込んでひまわりの様な微笑みを浮かべる。
「その調子です。後はしっかりと愛情を込めれば、すくすくと育ちますよ」
「愛情を込める……よく分かんない」
「うふふ、まずは優しく水をあげましょうね」
エーデルは花壇の隅に置いてあったじょうろを持ち上げ、見本としてフィーの花壇に水をかける。
耕された土に優しく降り掛かるじょうろのシャワー。ゆったりとした時間こそが、この園芸部の日常であると言えるだろう。
しかし、今日はそんな日常に2人、来訪者が訪れた。
「わぁ、花がいっぱい咲いてるね〜」
「こんな場所があったのか」
小柄な少女と無表情な青年の2人組、要するにミリアムとライであった。
「ミリアム、……あとライも。珍しいね」
「ああ、今は部活巡りの最中だ」
「……部活、巡り?」
聞き慣れない単語にフィーは聞き返す。
この学院はどちらかと言うとある程度やりたい事が決まっている学生が多い上に、それほど自由な時間も多くない。そのため、ライ達の様にとりあえず部活を巡ってみようとする学生は少ないのである。
そんな珍しい来客に、エーデルがのんびりとした笑顔で話しかけに行く。
「よく分かります。この学院は素晴らしい部活がいっぱいありますものね」
「ええ、目指せコンプリートです。……フェンシング部を除いて」
「あら、フェンシングはお嫌いなのかしら」
フィーは、ライとエーデルが名前を交わしている様子を横目で見ながら、一緒に園芸部に来たミリアムに1つの違和感を投げかけた。
「……ねぇミリアム。今日のライ、ちょっと変」
「そうかなぁ、いつも通りじゃない?」
「よく分かんないけど、いつもより雰囲気が緩いと思う。なんだか今日のサラみたい」
「う〜ん、言われてみれば、確かにそんな気も……」
今度はミリアムと2人でライとエーデルを眺める。
無表情と太陽の微笑みと言う対照的な光景だが、どうやら話は弾んでいる様だった。
「──それで、この園芸部では何を?」
「そうですねぇ、基本的にみんな自由に育てていますから。ハーブとかコスモスとか、他にも野菜を育てている人もいますよ」
「野菜を? ……それは俺でも大丈夫ですか」
「ええ、もちろんです」
エーデルの返事を聞いたライは1回頷き、 同行者であるミリアムへと会話を繋ぐ。
「ミリアム、一度寮に戻りたいんだが構わないか?」
「う〜ん、ならボクは技術棟って場所に行ってるよ。前に覗いたとき色々な機械があって面白そうだったし」
「分かった。後で迎えに行く」
その一言を最後に、ライは寮へと駆け出して行った。
不思議そうに背中を見つめるフィーとミリアムをその場に残して……。
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