24話「エリオット・クレイグの憂鬱」
「え? なんで? どうして父さんがっ!?」
「落ち着け」
ハイアームズ邸へと続く道のど真ん中、ライが慌てふためくエリオットを一喝した。
身内と思わぬ再会をして混乱するのも分かるが、今は落ち着いて状況を見極めるべきだと判断したからだ。その考えはガイウスも同じだったらしく、落ち着いた言葉遣いでエリオットに質問する。
「エリオットの父親はサザーランド州の軍人であったのか?」
「南のサザーランド州じゃなくて東のクロイツェン州だよ! ここからすっごく離れてるのに、何で父さんがセントアークに居るのさっ!? 訳が分からないよ!」
「だから落ち着け」
「……う、うん」
何とかいつもの調子を取り戻しつつあるエリオット。
数回深呼吸をして、ゆっくりとハイアームズ邸前にいる自身の父親について説明し始める。
「僕の父さんは帝国東端を守る第4機甲師団で中将を努めているんだ。師団の司令っていう重要な立場なのに、何で持ち場を離れてセントアークに……」
「中将かあ。エリオットのお父さんって凄いんだね〜」
「……第4機甲師団?」
ミリアムがのんきに感想を述べている隣でライが考えにふける。
第4機甲師団、最近その言葉をどこか別の場所で聞いた覚えがあったからだ。……しかし大分前だったのか、中々その記憶を思い出せない。最近は色々と抱える問題が多い事も原因か。
(――仕方ない、後で考えるか)
今の最優先はエリオットの父親の謎だ。中将、つまりは師団トップクラスの人物が師団を離れセントアークの、それも四大名門のハイアームズ家を訪れるのは異常としか言えないだろう。
「ふむ、これ以上の情報を得るには当人に尋ねる他なかろう」
息子であるエリオットが知らない以上、ラウラの言葉以外の手だてはないに等しい。
だが1つ、実技テストの晩にエリオットが言っていた《家庭の事情》がライにとって気がかりであった。
「エリオット、大丈夫か?」
「……正直、父さんとはもう少し時間をおいてから会いたかったよ。でも、この状況で会わなかったら後で気になるだけだし……、……うん、だったら直接会って聞いてみた方がいいよね」
「…………」
「なら決まりだ」
あえて時間を外し出会わない様にすると言う選択肢があったにも関わらず、エリオットは最近連絡を取っていない言う親に会う決心をした。ならば、その意思を最大限尊重するのが仲間と言うものだろう。ライ達の方針は今この場で定まった。
その方針を元に、B班は揃ってエリオットの父《オーラフ・クレイグ》の元へと歩いていく。
不安と決心がせめぎあうエリオットの表情。
ライはそれを見守りながら、エリオットと親の関係がこのまま改善されるのではないかと言う淡い期待を抱いていた。
……期待はしょせん儚い絵空事でしかないと、少し後に思い知らされる事になるとも知らずに。
◇◇◇
黒い導力車のたもとへと辿り着いたライ達B班。
その中からエリオットが一歩前に出て、自らの父親へと話しかける。
「と、父さん」
「――むっ? その声は……」
息子の声にオーラフが振り返った。
その厳つい瞳には歴戦の気迫が宿っており、厳格な帝国軍人らしい鋭い雰囲気が辺りを支配する。彼の側にある無骨な軍事車両と比べても、まるで謙遜のない屈強な漢がそこにいた。
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