30話「誘拐」
「……ねぇ、エリオット遅くないかしら」
「ああ、そろそろ追いついても良い頃合いだが」
セントアーク東区にある2階建ての雑貨店で依頼を受けたライ達は、鈴付きのドアから外に出ながら未だ戻らぬエリオットについて話していた。
そして、そのまま人工的に作られた水路沿いの道を歩き、噴水広場へと向かっていく。要するに、相談して依頼をこなしながらもエリオットを探そう、と言う流れに落ち着いたのである。
「全く、昨日に引き続き迷子が多いわねセントアークは」
「幸い今回はARCUSがある。導力波の範囲に入れば――」
何気なく水路を見たライは、反対側を歩く人影を見て思わず言葉を止めた。不思議な黒い服を着た銀髪の少女。間違いない、昨日情報をくれて消えた少女だ。
「……悪い、先に行っててくれ」
「え、ライ?」
また消えてしまうかも知れない。そう思ったライは水路の手すりに足を掛け、水路を一息に飛び越えて曲がり角に消えた少女の後を追った。
まるで昨日の様な状況。けれど、今回は曲がり角の向こうに、しっかりとその小さな背中があった。
「今度はいたか」
ライの言葉に少女は気づき、前髪を揺らしながら振り返る。
「……私に何の御用でしょうか」
「何、昨日の礼を言いに来ただけだ」
「礼?」
少女は疑問を感じた様に顔を傾け、そして、ようやく話の意味を理解したのかライの瞳をジッと見つめて来た。
「礼の必要はないと判断します。あくまで私は目標の位置を伝えただけですので」
「いや、その情報がなければあの子を見つける事は出来なかった。礼を言うには十分な理由だ」
ライは少女に一歩近づく。
「昨日はありがとう」
「…………」
感謝の言葉を無言で受け取る少女。
だが暫くの間を置いて、
「……受け取っておきます」
僅かに視線を逸らしながら、少女はそう呟いた。そして数秒後、何やら少し考え込んで、再びライに向き直る。
「もう1つ、あなたに伝える事があります。――先刻、あなたと同じ制服を着た少年が武装した集団に捕まり、旧都東端に連れて行かれました」
「連れて行かれた? ……それは、もしかして」
エリオットの事か?
だとすれは、エリオットは道に迷ったのではなく、武装集団、恐らくバグベアーに誘拐された事になる。唐突に聞かされた緊急事態に、ライの思考が急速に回転を始める。
「では」
伝える事を終えた少女が前日の様にライから離れていく。
以降も前日と同じなら、視界から消えた途端に影も形も残さず消えてしまうだろう。故にライは反射的に「待て」と少女を呼び止めた。
「……まだ何か?」
数歩離れた場所で少女は静止する。
――何を聞こうか。何故それ程の情報を知っているのか等、聞きたい事は山ほどある。しかし、幾つも質問に答えてくれる程、彼女はのんびりしてはいないだろう。
ならば、今ここで聞くべき内容は1つに絞るべきだ。
だからこそライは聞いた。
「君の名前は?」
間接的にも助けてくれた少女の名前を。
ライのそんな問いに、僅かに目を見開く少女。
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