31話「とある少年の決意」
「全く、貴様の行動にはつくづく予定を狂わされる」
セントアーク外れの鍾乳洞内、バグベアーのリーダーがライ達に導力ライフルを向けながら、忌々しく吐き捨てた。
「俺達が伝える前に場所を突き詰める。唯一の道を塞げばペルソナを使える者だけが追ってくるだろうとの依頼主の作戦だってのに、ペルソナも使わずに乗り込んでくる。……まぁ、結果として同じだったのだから良しとして置くか」
言葉と共に、男は懐に手を入れて何やらボタンらしきものを押す。
すると、鍾乳洞全体が揺れた。
……何だ今の行動は。
ライはそれを問うものの、男は自身の話で頭が一杯なのか聞こうともしない。
「だが、貴様の持つペルソナ能力とやらが、どうしても気に食わない。単なる学生の分際で常識外れの力を持つなど、断じて認められるものかッ!」
銃口をライの頭部へと突き付け、理不尽に対する怒りを吐き出した。
ライは何時でも対処出来る様に、引き金にかけられた指に神経を集中する。だが、そんなライの緊張感を読み取ったのか、男は気分を良くして導力銃を下ろした。
「……フッ、撃つと思ったか? 案じるな、撃ちはしない。依頼主は"アレ"での戦闘をお望みだからな。俺達は戦場の死神"猟兵団"だ。報酬さえ支払えばどんな依頼だってこなして見せる。──例えそれがどんな犠牲を生もうとも」
自己に対する絶対的な自信を示すバグベアーの男。
同時にポケットから、勢い良く何か小さいものを取り出す。
導力灯に照らされる結晶状の物体。それは──
「──青い、石?」
「さぁ、おいで下さい"シャドウ様"。猟兵団として名を馳せる為、依頼を成功させる事こそ我が願い。今こそ、聞き届けたまえ!」
男はそう高々に宣言しながら、青い輝きを放つ石を飲み込んだ。
刹那、男を中心に青白い風が巻き起こる。
男の体から止めどなく溢れ出る力の奔流に、男は痛快な笑みを浮かべた。
「クッ、ハハッ! これだ、これでいい! 俺はやれる。失敗した奴とは違う。リーダーである俺なら……、オ……レ…………ガ、……グ、ア〝ァァアアアアアアアアアッ!!」
だが、その様子は唐突に変化した。男は両手で頭を抱え、もがき苦しむ様に大声で叫ぶ。
「違う! 俺、は……、そんなんじゃない! 貴様なんか、俺じゃないッ!!」
いったい何が起こっているのかは分からない。しかし、男だけが見える何かを男自身が否定した時、周囲に吹き荒れる光が赤く変化して爆発的に膨れ上がった。鍾乳洞を覆い尽くす赤い光、それと同時に男の頭から黒い水が止めどなく溢れ出す。
やがて、漆黒の水は倒れて動かなくなる男とは反対に集まりだし、1つの像を形成していく。
『我は影、真なる我……』
それは巨大な蝿と人とが融合した歪な存在だった。
腐りかけのものに集る矮小な蝿、男が目を逸らし、心の奥底に抑え込んだ存在がそこにいた。
『全く滑稽だなァ、俺は。猟兵団という栄誉に酔って、自分の身の程を弁えないとは』
蝿は男の声で、男の口調で醜い言葉を公然と発する。ライはこの状況に覚えがあった。かつてケルディックで遭遇したマルコの影、それと重なる光景に、今の男の行動が何であったのかを理解する。
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