3話「ペルソナ」
時間が少しさかのぼりライが魔物の巨椀によって吹き飛ばされた頃、壁に叩き付けられた音を聞いたトワは反射的に振り返り、助けようと足を出す。それをクロウは止めた。
「クロウ君! あのままじゃライ君が!!」
「だけど俺らが行ったところでどうするんだ! 待ってろ、今奴を引きつける!」
再度クロウは魔物の急所めがけて銃弾を発射する。しかし、魔物は4本腕のうちの2本を使い器用にその攻撃を防いだ。魔物の関心は依然としてライに向いている。注意を引く事すら出来ない。
「くそっ! 学習してやがる」
クロウは限られた時間で他の手段を考える。銃撃、アーツ、だがどれも間に合わない。終いにはライを見捨てるという手段まで考えたところで思考を停止させた。
「こうなりゃヤケだ。あいつがいなきゃここまで来れなかったんだ。見捨てる訳にはいかねぇだろ!」
そう自分に言い聞かせクロウは走り出す。結局はトワと同じ方法に行き着いてしまった。トワもそれに続いて走り出す。
たどり着いた場所は魔物とライの間。何とかして時間を稼ぐ。それが2人の出した結論だった。
何とか起き上がろうとするライに逃げるよう伝え、自分たちは魔物に対峙する。
はっきり言って手段などない。急所を隠された以上、あの巨体をのけぞらせるほどの攻撃は出来ない。アーツに関しても強大なものほど長時間の駆動時間が必要になる。
2人には目の前に映る建物ほどの巨大な魔物が絶対の壁の様に思えた。
一歩一歩迫り来る魔物。一歩も引く事のできないトワとクロウ。
だが、緊張の高まる中、唐突に魔物の足が止まった。
それにトワは疑問を感じる。
まるで自分たちの向こうに何かを見たかのような行動。そう考えついたトワは注意を前に残しつつも視線を後ろに向ける。そこにあったものは自らのこめかみに銃を押し付けるライの姿だった。
自殺を思わせるその行動にトワは思わず声をあげる。
「ライ君、何を——っ!!」
だが言葉は途中で途切れた。ライが銃の引き金を引いたとき、突如として彼を中心に光の突風が巻き起こったからだ。
光と風に一瞬目をつむるトワ。次の瞬間彼女が目にしたものは、彼の頭上に出現した光の巨人だった。
「何だよ……これ……」
遅れてライを見たクロウが戦いも忘れ呆然と呟く。
魔物と同じくらいの身長、しかし魔物とは反対に真っ白な光で構成されている。黄金のマントを羽織り、その顔には金属製の仮面が、その手には角笛を思わせるような巨大な鎚が握られていた。
「……魔物を、召還した……?」
完全に理解の範疇を超えた状況。トワとクロウの2人はただ呆然と立ちすくむ。2人にはまるで時が止まったかの様に感じられた。
それを壊したのは対峙していた魔物だった。突如怯えた様にライへと走り出す魔物。意識が逸れていた2人は反射的にそれを避けてしまう。
「っ! 避けて!」
既に遅いと分かっていながらもトワは叫ぶ。だがライは動かない。髪に目が隠れ、ただその場に立ち続ける。
迫り来る脅威、目前と迫った魔物に対しライはその口元を歪めた。
「……え?」
トワにはそれが、笑ったように見えた。
◆◆◆
体が熱い。ペルソナと言う巨人を召還したライは自らを開放したかのような強烈な感覚に襲われていた。絶え間ない力の奔流、高騰する意識。
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