ハカナイユメ
夢を見た。
あの憎き竜を倒すその場面を。
夢のようなあの人との戦いを。
あの人はいつものように慣れ親しんだ武器を番え放つ。この時のために持ち込んだ爆裂の矢を惜しみなく放つ。一、十、百と。放つ場所は決まって胸、たまらず竜は怯むがそれでもお構いなしに放ち続ける。私も魔法を唱える。懐から断続的に魔法を唱えれるようになる薬も忘れない。彼女はそれに応えるかのように相手の動きを封じる。足を踏み出しながら彼女も薬を飲む。
詠唱も後半に近付くにつれ私の周りに炎塊が現れる。それを見届けると彼女は竜に詰め寄る。龍が飛ばぬように私は詠唱を終え解き放つ。そしてすぐさま次の詠唱に入る。空からいくらかの炎塊が竜めがけて落ち鱗を傷付けていく。彼女はその炎塊を足場に竜の胸に張り付くと持っている短刀を振り下ろした。
彼女の得物が竜の胸を穿ったとき竜は深い悲鳴を上げた。しかしそれで攻撃を止める私たちではない。次に詠唱していた魔法を放ち竜巻を竜の胸元で起こす。彼女は風に巻き込まれないように獲物で自分を固定して衝撃に備える。胸は抉れ心臓部が露出する。それはとても綺麗な石のような物だった。見惚れそうなのを堪え次の詠唱に入る。
そこまでくると竜は全身を振り動き彼女を飛ばし、私を尾で弾く。私はなんとか武器で防ぐことに成功するが、彼女は受身を取れずに墜落したのか背中を強く打ち付けていた。
竜は彼女を両手で掴み力を込める。だいぶ離れているのにも関わらず骨が軋む音が聞こえた。まずい、急がねば。
先ほど唱えていた魔法を解放し救出を試みる。詠唱破棄とも言うが普通に魔弾を飛ばすよりも威力はある。私の体に紫電が現れそれが彼女に走る。それは竜にも走り奴は堪らず彼女を放す。視線だけで彼女は私に感謝を表す、私も頷くことで返事をして次の詠唱に入る。彼女は両手を地面に添えて足に力を込める。その足元に煙が発生する。
竜は上半身を持ち上げ口に火を溜めた。漏れ出す熱は辺りにある風景を酷く歪ませていた。それが放たれるのと私の魔法が放たれるのは同時だった。
私の杖から放たれたのは氷柱。いくつかに枝分かれしたソレの半数は竜の心臓に向かい、もう半分はその柱を覆うように竜の口に注がれた。竜の火炎は氷により阻まれ彼女は氷柱を足場に心臓に駆ける。彼女の通る道に一筋の光の線が出来上がり彼女は剣を心臓に突き刺す。そのの瞬間彼女が先程まで居た場所が爆発する。火柱を上げて氷柱を走り竜の胸にまで到達し破裂した。
その衝撃故か竜は空を仰ぎ咆哮する。地面が揺れるほど大きなものだった。
それを最後に竜は倒れた。決まって私もそこで目が覚める。
その光景を私は何度も見た。全く同じではないにしろ最後は竜を伐って終わる。
これを見るようになったのは彼女を失ったあの日からだ。私は彼女を求めて世界を旅した。山を越え、川を越え、海をも越えた。でも彼女はいなかった。そして世界すら越えた。それでも彼女はいなかった。
彼女はどこに行ってしまったのだろう。
探しても無駄なのだろうか。
「ステラ、もう起きたのかい?」
彼女の事を考えていると私を呼ぶ声がした。
「あぁ、また彼女とやらのことを考えていたのかな?」
「……」
無表情で私の顔を見るこいつは私の仕事仲間だ。私は彼女を探すために情報と路銀を集めるために傭兵のようなものをしていて、割と情報が集められるこの場に長い間厄介になってたりする。この場の奴らが悪事というものを働いていたとしても彼女の手がかりになるならばしょうがない。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク