こども先生
▼
――夜の桜通りに吸血鬼が出る。
これは最近女子寮で流行っている噂話だ。女の子は噂好きとは言うが知る人も少ない噂だ。何しろ昔から似たような噂もあって広がり方がいまいちらしい。
私は女子寮に住んでいないが知っている。何故かといえばカズミが教えてくれた。彼女は面白い話を見つけては私に教えてくれる。流行に疎い私にも噛み砕いて、まるで体験したかのように面白可笑しく話してくれる。あんまりにも怪しい噂だったからチサメが「あんまりガセネタ吹き込むなよ?」とカズミに言っていた。でもこれ……多分ガセじゃないと思う。
その噂を聞いた頃の話だ。最近、エヴァが一頻り何かに夢中になっている。私一応従者のはずなんだけど一切教えてくれない。聞いても「お前が関わるほどではない」で終わる。取り付く島もない。
そして話は冒頭の噂話、吸血鬼が桜並木に出没する噂に戻る。夜な夜な女性の血を吸いにやってくる。女学院がある麻帆良では餌に事欠かないだろう。誰かは知らないがいいところを狙ったものだ。
そんな噂があることをエヴァに伝えれば満足そうに頷くだけ。茶々丸もほんのり嬉しそうに彼女を見る。誰の仕業かすぐさま理解した。なんでもこれからやってくる先生のための行動らしい。私が関わらなくても問題ないってそういうことですか、そうですか。
やり過ぎないようにね? と伝えたけれど笑みを一つ返された。多分何を言っても無駄とらしい。もしも止めたかったら好きにしろとまで言われた。
そしてその噂が起きてから暫く経ちもう一つの話題である新しい先生が来る日になった。
カズミはどんな先生なのかちょくちょくタカミチに尋ねるのを見た。セツナたちは「こちら側」ということくらいしか知らないらしい。私? 私もあんまり知らなかったりする。そもそもなんでこんなに皆が皆楽しそうにしているのもあまり理解できていない。フウカたちが楽しそうだから釣られてそう思えるくらいだ。タカミチの知り合いらしくどんな子か聞いてはいるのでみんなよりも詳しくはあるだろうが、こどもであって、先生をしなければいけない程度しか知らない。あとは名前くらいか。そりゃあ何かあったらフォローしてくれとは学園長から頼まれたけどさ。
私が知っていることはチサメには話した。学園長に頼まれたことも。困る前に相談しろって怒られた。最も過ぎて何も言えないね。
流石に会ってみないとどこまでフォローしたらいいのかわからない。しかもエヴァがエヴァで喧嘩売る気満々だから尚更難しい。仮契約してしまったのは早計だったかもしれない。それで助かった事もあるから悪いわけじゃないけど。
今朝、ホームルームの時間前にアスナが不機嫌な状態で登校してきた。コノカが必死に落ち着かせていたから大丈夫だと思うけど……。「あのガキが先生?」とか呟いたけれど……まさかね。
ホームルーム直前にフウカたちが先生が通るであろう場所に罠を仕掛け始めた。こども相手になんてことを……と思ったけれど知らないからしょうがないか。エヴァもつまらなさそうに本を読んでるので私も若干気を静めよう。これがこのクラスの歓迎方法だと学んだ。騒がしくなりそうだからチサメに耳栓を借りて本を読む。その際にチサメも浅くだが耳栓を付けた。セツナたちも騒がしくなるのを見越して我関せずを通していた。
そしてその時はやってくる。扉を開けて赤毛の少年が教室に入ろうとすると黒板消しがその頭に落ちる。そのままぶつかると思えば一瞬だけ黒板消しが宙に浮く。あ、早速やらかした。私の席から見える範囲だと生徒でそれに気付いた様子はない。その事に安心していると黒板消しが先生に直撃する。白っぽい煙が先生を包みその後も罠に引っかかって、最終的に教卓に激突する。ギャグのように全部引っかかったな……というか大丈夫かな?
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク