彼女の名前
▽
いつも通り麻帆良の夜警をしていた時にそれは起きた。
突然空に光が出たと思えば辺りに居た鬼が消え去るという現象。そしてそれを起こしたのは魔法先生やエヴァではないということだった。
刹那君の報告では鬼から助けてくれた少女がやったらしいのだけど……言葉が通じなかったと僕が見ても焦っている表情で言っていた。
龍宮真名君から聞けばその少女は英語で喋っていたそうで刹那君にはもう少し英語を頑張ろうか、と呟いたのはきっと気のせいだろう。
麻帆良とはいえ、あの広域にいた鬼たちを一発で全滅させた少女をただで帰す訳にはいかない。刹那君の話では敵対してはいなさそうだが警戒はしているだろう。
そもそも、それは一度会話をしてみないことには判断できないのだが……。
その出来事が起きたのはついさっき、ならまだ近くに居るはず……そう思い探してみればその子は居た。
街灯に照らされるように椅子に座り休んでいた。
武器を持ってさえいなければここまで目立つこともなかっただろう。そこだけは感謝しておこう。
そんな彼女は僕を見つけるとどうしようか悩んだ挙句声をかけてくれた。
綺麗な英語で。「すみません、いきなりで悪いのですがここは何処ですか?」と。本場の英語でもここまで発音が良くないだろうな……と、どうでもいいことを考えるほど綺麗な英語だった。
……軽く現実逃避してしまった。綺麗な英語を喋る彼女に不安ながらに英語で返答をすればやはり件の少女だったらしい。
背や腰を見れば刹那君たちの証言にもある武器の類も確認できた。
話が通じないというものだから手荒なことになると思っていたけど……そんなこともないようだ。
流石に僕一人で判断はできなさそうだから学園長に任せよう。それまでに彼女の情報をいろいろ聞いておこうか……。
「そういえば名乗っていなかったね。僕の名前は高畑・T・タカミチ、タカミチと呼んでくれ」
「私はユキ、好きなように呼んでくださいタカミチ」
話をすれば彼女は気づけばここにいたと自身でもわからないことだらけらしく、お手上げ状態だった。
それでも放置はできない。魔法を一般生徒の前で使われるわけにもいかない。
些か従順すぎな彼女の対応に少々戸惑いながらも校長室に連れて行った。
▼
タカミチに会えてよかった。言葉が通ずる人に会えてよかった。
なんでもこの世界ではオーガなどの生物がいることは隠蔽されているらしい。この学園都市の一部の生徒、先生はそれを内密に処理している。とまで聞いた。
内密に処理しているなんて聞いたときは己の行動に思わず顔が熱くなってしまった。一瞬とは言え閃魔光を打ち込んでしまったのだ。そのことで謝罪すればタカミチは悪気があったわけではないし鬼も消えたから特に問題はないよと言ってくれた。何かあっても誤魔化しておくしとも。
言葉が通じるだけでとても信頼してしまうのはきっと気のせいだろう。
知らなければ幸せなのだ。私だって覚者の使命なんて知らなければきっと今頃幸せになれて……居たのだろうか?
ありえないことがあたりまえになりすぎて感覚が可笑しくなっていた。
今更ながらに「学園都市」という言葉が気になって聞いてみれば大人が子どもに勉学を教える場を学園と言うらしい。ここはそれがたくさんあるから学園都市という。なるほど。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク