ハーメルン
ソードアート・ストラトス
第15話 自由を手に……

「ありがとう虚ちゃん。後は私の方で何とかするわ」

「かしこまりました。お嬢様」



生徒会室の扉を開け、走り去る主人の背中を見て、深く溜息をつく虚。
学校の……というより、どこでもそうだが、廊下を走ってはいけないというのは、基本であり、普通であり、マナーだ。
だが、生徒の長たる刀奈自身がそのマナーを破っているのだから、他の生徒に示しがつかない……後でお説教だな。
そんな事を考えながら、虚は生徒会室の端っこの方に置いてあるティーセットへと手を伸ばす。
余談であるが、自身では思ってもいないのだが、虚の作る紅茶は、主人である刀奈と、この学園で用務員として働いている事実上の運営者たる男性……轡木 十蔵は虚の紅茶を『世界一』と評価している。
そして、虚がティーカップに紅茶を注いでいると、ふと横目で見てしまった。だるだるの制服を重そうに引きずりながら机から顔を上げる少女を。



「ウイィ〜……良い匂いぃ〜」

「はぁー……本音、もう少しシャキッとしなさい。あなたもこの生徒会の一員なら、もう少しみんなの模範になるような生活を心がけなさい」

「うう〜〜ん……眠いんだもん……」

「ダメです。今日の分の仕事、早く終わらせなさい。でないと、お菓子はあげません」

「うわぁ! それはないよぉ〜お姉ちゃん!」



動くトリガーが『お菓子』という点は、もう見飽きた。
姉である虚にとって、妹である本音の行動パターンは手に取るようにわかってしまう。



「それにしてもたっちゃんさん、気合入ってたねぇ〜」

「えぇ、そうですね。それほど織斑くんのことが大事なんです」

「ふっふぅ〜。おりむーも果報者だねぇ〜」

「そうですね。……いえ、果報者はお嬢様の方ですね」

「えぇ? たっちゃんさん?」



紅茶を一口啜り、一息ついてから、自身の席に座って作業を続ける虚。


「えぇ、あなたも覚えているでしょう? SAOから開放されたお嬢様を……」

「うん。かんちゃんが凄く喜んでたから、よく覚えてる」





姉妹は共にあの日のことを……いや、もっと前、二年前の事を思い出していた。






〜二年前〜



『あなたは何もしなくていい……。私が全部やってあげる。だから、あなたは ”無能” なままでいなさいな……』





刀奈が発した、妹・簪に対する言葉。
その言葉をきっかけに、二人の仲に深い溝ができてしまった。
更識家は、昔から裏工作などの実行を承っている対暗部用暗部の家系だ。
とても由緒ある家系で、その当主は代々『楯無』の名を継いで来た。
そして、その名の襲名もまた、二人を引き裂く要因たり得た。周りの人間も、刀奈を当主にと煽り立て、簪の事をその補欠とばかりに考えるものも少なく無かった。





「お嬢様。幾ら何でも簪様にあの様な……」

「…………うん。わかってるのよ、私だって……」


[9]前書き [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/13

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析