4-6 覇王、歌姫、小娘
曹操が合流してから2日目の午前。江陵陣内では皇甫嵩や張遼、曹操らを交えた軍議が執り行われていた。
「では明日からは門の破壊と、早朝の襲撃を追加する」
「お? やっとウチの出番かぁー」
「これまで通り遊撃も行ってもらうが、左右の抑えは曹陳留が行う。左右は包囲の兵数を多く見せるように」
「はっ」
朝夕には兵士を横に広げて旗を多く立て、包囲の兵を実際より多く見せて士気を落とす作戦が繰り返されている。
賊が焦って飛び出してくれば馬で蹂躙し、守っていれば追加で策や攻撃を行う。
「逃げ出す賊も多い。そちらで一時的に受け止め、可能な限り撃滅。以降は指示を待て」
「……はっ」
実際、当初は賊15万人に対して官軍3万程度だった戦いは、既に賊が12万人にまでその数を減らしている。官軍など、逆に4万人にまで数を増やしている。
15万人で攻められれば官軍の兵1人が賊を5人殺さなくてはならない戦いも、2千から3千人ずつの小集団の駆逐なら、近づかれる前に半減し、触れれば蒸発といった戦いになるため、兵力の損耗はほぼゼロだ。
「張文遠は夜明けと共に北に布陣し、賊に川を渡らせぬよう壁となってもらう」
「ん、任せとき」
「馬では夜襲は出来ぬだろうから、夜襲に参加したい者は江陵の陣まで来い」
周瑜が笑いながら告げる。夜襲のために陣まで来る者など張遼しかいないからだ。
張遼に滞在許可を出すのは空海からの要望である。曹操への抑えにもしている。
張遼が笑いながら了解し、周瑜は諸侯の布陣を伝えていく。
「では皇甫中郎の本隊を除いてはこれまで通りに。本隊は正面の城門への攻撃を指揮していただく」
「お言葉ですが……賊たちは既に戦意を失っております。降伏勧告を行うべきです」
「そのための布石ですよ、皇甫中郎。連中も、数で劣って口うるさいだけの我らに降伏したいなどとは思っておりますまい」
実際、周泰を使って探らせている範囲では、未だ熱心に防衛を説いている者たちも多いらしい。身内の犯行を装って排除を行っているが、万に届くかという狂信者たちが相手では焼け石に水だ。
周瑜の説得に対して、叔父の話を持ち出したり儒学がどうとか言い出したり、人道がどうとかこうとかうるさくなってきた皇甫嵩を適当にあしらいつつ、軍議を切り上げる。
「では軍議はこれまで。各自の働きに期待する」
「あれ?」
「む? どうかされましたか、空海様」
黄蓋を伴って陣中をウロウロしていた空海は、曹操陣営から違和感を感じとった。
「今日も夜襲があるよね?」
「そうですな。冥琳からも特に変更があったなどとは聞いておりませぬ」
黄蓋に集まる視線が妙に多いのだ。最初に陣を視察したときに匹敵するほどに。
「曹操軍の兵士たち、妙に浮き足立ってない?」
「……陣中を覗いたときと大差ないように見えますが」
「だよね……あ、郭奉孝、程仲徳、いいところに来た」
璃々を昼寝に連れて行くのは郭嘉たち3人娘に与えられた仕事である。おそらくはその仕事を終えて陣内に出てきたばかりであろう2人を空海が発見した。
「何か御用でしたか、空海様」
「おやおやー、まさかこんなところで風たちを」
「今日も夜襲があるんだけど、曹操陣地の様子おかしくない?」
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