2-3 馬だ、馬を出せ!
「すげー。でけー」「うわぁー」
昼下がりの江陵郊外、そこで騒いでいるのは茶色の髪のちびっ子二人。
「祭ねーちゃんはやくー!」「おばさまもはやくー!」
「これ、引っ張るでないっ」「はいはい。今行くから走るな」
ちびっ子二人に引っ張られるのは綺麗な女性二人。
一人は青みがかった銀の長髪と褐色肌の美少女、黄蓋。
一人は長い栗毛に萌黄色の服で白い肌を包んだ美女、馬騰。
「これどのくらいの大きさなんだ?」「どれくらいおおきいのー?」
「見えておるのは第一層、外周は480里(200㎞)ほどじゃよ」
「すごいなっ母さま!」「おっきいねーおばさま!」
「あ、ああ。……洛陽よりデカいだろ、これ」
ちびっ子たちを抑えながら長い橋を渡る。馬車と人がなんとか並んだまま通れる程度の幅しかない細いものだ。しかも途中で大きく湾曲しており、現在も渋滞気味だ。
「ちなみにこの堀の幅は150歩(200メートル)ほどじゃ」
堀には透き通った水が一杯まで注がれていた。覗き込めばうっすらと水底を見ることも出来たが、馬騰は吸い込まれそうなその深さに慌てて顔を上げる。視線を水面の果てに向ければ、数里は離れているだろう場所にも橋が架かっているのが見えた。
振り返れば反対側にも橋が見える。どちらも街から出て行く方向に人が流れていた。
列の長さの割には対して待つこともなく、いくつかの門をくぐる。両手で数えなければならないほどの数の門一つ一つに異なった趣の装飾が施され、子供達も飽きずにそれを眺めている。
一つ目と最後の門でそれぞれ短い列に並んで審査を受け、ようやく中へと入った頃には半時(1時間)以上が過ぎていた。
江陵まで乗ってきた馬車を乗り換え、一行は江陵内を走る馬車鉄道の駅へと向かう。
「最上層はここから200里(83㎞)ほどじゃな」
「そんなにあるのか!?」「あるのかーっ!?」
元気に騒ぐ子供達の姿に、黄蓋から苦笑が漏れた。
江陵内はまっすぐ最上層へ向かうことが出来ない作りになっている。一層からまっすぐ最上層方向へと向かっても橋は架かっていないのだ。橋を渡るためには、堀に沿って左か右に20里ほど移動しなければならない。
同様に二層から三層へ向かうときも、その先も、あみだくじを辿るように移動して行くことになるのだ。それぞれの層を移動する時には、外から第一層に入る場合と同等以上に大きな堀と多数の門を超えて行く。
更に、江陵内で馬に乗れるのは特別に許可された者だけだ。
一般人向けに公共の乗合馬車が存在するため、普通はそれを利用する。馬車鉄道と馬を乗り継いで最上層へは最短で3時間、馬車鉄道と乗合馬車を上手く乗り継げば通行許可を持つだけの一般人でも6時間ほどで最上層までたどり着ける。
「今日は最上層の一つ手前、第四層に宿が用意してある」
「ずいぶん手厚いもてなしだな」
「こんなもので終わりではないぞ?」
黄蓋は挑発するような笑みを浮かべ、馬車へ乗り込む。官位持ちの自分が乗り込めば、周りの連中もさっさと出発の準備を整えてくれるのだ。馬騰を拾ってから旅を続けること1週間、そろそろ慣れてきた気軽さもある。
「子供達も腹を空かせておるようじゃし、少し早いが第二層で食事にしようかの。そこから一時半(3時間)ほどで宿に着くじゃろう」
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