一緒にどうだと誘われたから六月二十六日は攘夷記念日
あの日から今日の今まで万事屋に足を運べずにいた。ターミナル復旧まだしてないし、とか、天気が悪いから、なんてどうでもいい理由をつけて避けに避け続けてしまった。
神楽ちゃんは私を許してくれたけれど、結局その根本は解決できないまま、彼女の自己助力に頼ってしまった。それが後ろめたいというのも勿論あるが……。
銀さんとの会話に私は、きっかけを求めていたのだ。記号だけの謝罪に意味を付け加える為の言葉を求めていた。あそこでぶん殴るとか、蹴り倒すとかそーいう答えを貰えれば、それを理由に、白々しい謝罪も意味を持ったのだと思う。それなのに期待した答えは返って来なかった。
全て自己都合なのだ。それが悪いとは思わない、人間ってのはそーいうもんでしょ? それを否定できる人間がどれだけいるっていうの?
「――であるからして、攘夷というのは肉体と同時に魂も鍛えることができる素晴らしい活動だということを……」
そもそも宇宙へ行こうという行為ですら自己都合だという事に気付いてしまえば、私はもうどうしたらいいのだろうか? 六の目が出るサイコロなんて要らないと銀さんは答えた。きっと私の知る全ての人間がそんなもの欲しないだろう。それを私は知っている。そんな物を欲する様な人達じゃないという事は嫌という程知っているのだ。
それを踏まえた上で、それを欲しがっている自分に気付いてしまえば、本当どうしたらいいのだろうか?
「聞いとるのか貴様は!」
「あ、はいはい聞いてますよ」
そして、どうして私は桂さんに捕まってしまったのだろうか。
けれど、自分以上に自己中心的な人間を見ていると、自分なんて実はまだマシな方なんじゃないか? という幻想を抱ける気がした。
それは、流石に限界だなと、重い足を引きずって万事屋に向かう途中。長屋が軒を連ねる細い路地。近道をしようと思ったのが悪かったのか……。
「貴様か、真選組から逃げおおせてるという指名手配犯は」
「人違いです」
銀さんも羨むというか、私も羨ましいぐらいの艶やかな長髪ストレートが前に立ち塞がる。とっさに踵を返し道を変えようとすると、気が付けば背後には白いでかい物体。疑う余地もなく、狂乱の貴公子こと桂小太郎と、謎の宇宙生物エリザベスの二人組。
エリーの真っ黒な瞳がこちらをじっと見つめている。薄暗い路地の雰囲気と相まって中々に怖い。
「あの、本当人違いなのでそこ通して頂けないでしょうか」
『潔く認めな』
遠慮がちに伝えると、エリーは真っ白なプラカードを掲げ、反対の手で、とっくに時効となった筈の指名手配書を突き出す。相変わらず、無駄によく書けてるなぁ。
「しらばっくれてもこの桂小太郎は騙せはせんぞ」
「いや、本当勘弁して下さい」
攘夷活動の一貫とか攘夷入隊の誘いとかどーせそういうのでしょ? 結構だから。いや結構とかいう曖昧な言葉を言ったらこの人の事だ、良い方に捉えるに違いない。
「先急いでいるので、失礼します」
「まあ待て。この話を聞けば、その辺の雑事など芥のように感じるに違いない。人間五十年。短いその中で何を取捨選択するのかが重要だと思うぞ」
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