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事実は小説より奇なり、という言葉がある。
現実に起きる出来事は、ともすれば物語の中で起きる出来事よりも不思議で面白い、という意味だそうだが、ぼくとしては、自身の人生の中で奇妙だと思った事は数あれど、面白いと思ったような出来事は一度もない。
今の状況もそうだ。
奇妙ではある。
しかし、面白くはない。
愉快では、まあ、あるけれど。
「とは言え、実際は奇妙だと思っていた事も、蓋を開けてみれば妥当と言うか、不思議でもなんでもないことばかりなんだよねぇ。予定調和というか、さ」
「……? どうしたのです、急に。独り言ですか? 気持ち悪いですね。気持ち悪い人ですね」
「――いやぁ、ただの戯言ですよ。何でもありません……後、気持ち悪いって二回も言わないで下さいよ。こんなぼくだって、一丁前に傷ついたりするんですから……いや、嘘ですけど」
そうですか、と。
そう、何とも思ってなさそうに呟いて、彼女――陸上自衛隊所属一等陸尉、嵐山嵐は、乗車しているモノレールの窓の外へと向けていた視線を、こちらへと向けた。
「貴方が傷つこうが、傷つくまいが、私にはどうでもいいのですよ。貴方が気持ち悪いのは事実なのですし……正直怖気が立つので、こっちを見るの、止めてもらっていいですか」
「……嵐山一等陸尉って、仮にもぼくの護衛ですよね? そう言うのって、護衛対象のメンタルケアとかも含まれていたりしないんですか?」
「ハッ」
「――!? 鼻で笑った!?」
いや失敬、と。まるで失敬したと思ってなそうな顔(とはいえ、彼女が表情を変えた事を、短い付き合いとは言え、ぼくは見た事がない)で、ぼくに謝ると、しかし悪びれもせずに続けてこう言った。
「申し訳ないとは特に思っていませんし、残念とも思っていませんが、私の職務には、貴方のメンタルケアは含まれていません――私の職務は、貴方を無事にIS学園まで移送することです。それにそもそもの話、貴方にメンタルケアなんて必要ないでしょう」
図太そうな顔してますし、なんて言わなくてもいいことまで付け加えて。
……本当、何の遠慮も無しに酷い事を言ってくれる。
護送ではなく移送と言うあたり、こっちのことを人間ではなくISの部品か何かだとでも思っているのだろう。究極的な話、生きてさえいれば五体満足でなくてもいいのだ。その辺、昨今の女尊男卑の考えからではなく、素でこうなのだから恐ろしい。
きっと彼女は、自分自身のことですら、健全に社会を動かすための歯車の一つでしかないと考えているのだろう。
酷く合理的で、正しく客観的。
彼女にとって大事なのは社会そのものであり、例え、それが守るべき人間だろうと、内閣総理大臣だろうと、はては男性IS操縦者だろうとも、総体としての国民がより良く生きるためならば、個というものは犠牲になって当然だと考えている――少なくとも、ぼくにはそう見える。
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