アイリスフィールは失った②
夜の空気を切り裂くように、ランサーは走った。
開かれた戦端、それは予想より早ければ、相手も想定していたものと違う。結果的に、裏をかきつつ、裏をかかれた状態になった訳だが……不謹慎ではあったが、ランサーはそれを同時に喜んでもいた。実際、自分の相手がセイバーだと言うのは、とても気合いが入る。どこの誰かも分からぬ魔術師などよりはよほど。
それに、状況を聞く限りアーチャーは不利であった。遠距離攻撃を得手としている者が接近されれば、そうなって当然なのだが。
つまり、ランサーには、可能な限り早くセイバーを打倒してアーチャーを助ける、という役割もあった。全く持って、難易度の高い現状。しかし、だからこそランサーは滾っていた。
もたらされた情報によると、彼のマスター達の位置は、襲撃方向から真っ直ぐ。まあ、これは改めて確認するまでもない。地面には、足跡と言うには派手すぎる跡が、しっかりと残っていたのだから。
跡を追った先には、車が一台止まっていた。が、当然そこに人影はなく、また気配も無い。
恐らく、理由は二つ。バーサーカーを制御するには、なるべく近い方がいいという点。そしてもう一つは、襲撃失敗に対するカウンターから、身を隠しているのだろう。
隠れられる場所は、多くない。せいぜいが、ガードレールを乗り越えた先にある、閑散と木の生えたなだらかな丘。そこを集中して見れば、二人の女と、一人の男。女が障害物に隠れながら、下ろうとしていた。
その中に最低でも一人、マスターが居る。
全力で走れば、その中の一人くらいは切り捨てられただろう。だが……と、不適に笑みを浮かべながら、丘の麓を見る。極めて不自然に作られた道、それを逆流するように、砂塵が舞っていた。
「やはり、来るか」
マスターらしき相手を切るのに集中していれば、背後から両断されていた。アーチャーが二人の足止めをしなかった以上、それは無理な話だ。
可能であったのなら、戦略的にはマスターに集中攻撃の方が正しいのだろう。だが、元より気乗りのしない作戦。加えて不可能になったとなれば、否やは無い。むしろ望みの展開だった。
セイバーがマスター達にたどり着いたのと、ランサーが空高く飛び、セイバーに紅槍の一撃を見舞ったのは同時だった。
触れあう刃と刃。風の宝具に触れたらしく、一瞬だけ周囲に吹き荒れる烈風。それもすぐに収まり、そしてランサーは宙で上手く姿勢を取りながら、音も立てずに着地した。
超反応にも、剣筋にも陰りが無い。半ば奇襲じみた一撃に容易く対応し、その上押し返してさえ見せた。これを喜ばずには居られない。
ランサーに意識のほぼ全てを集中しながらも、背後に声をかけるセイバー。
「アイリスフィール、無事でしたか」
「え……ええ、私たちは何ともないわ。セイバーが来たのと、ランサーが来たのは同時だったし」
「良かった。カリヤ、そちらはどうです?」
「う……くっ、ダメだ。アーチャーの癖に、想像よりも接近戦が強い。こっちが有利なのは変わらなが、攻めきれなければいつか必ず逆転される」
「十分です」
それだけ言い終わると、セイバーは改めて構え直した。
「早く下に……」
「逆だ。俺たちは上に戻らなければならない」
「すでに見つかってしまいました。なら、隠れながら下るよりも、車に乗って一刻も早く離脱すべきです。マダム、行きましょう」
下る時同様、女の主導で戻っていき、手早く車に乗り込み。テールライトの尾を引かせながら、車が去って行った。
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