10
日が傾き、橙色がかった斜光が街路樹や住宅街を照らし、それらは一様に同じ方向へ影を伸ばしていた。日の光は生活風景に突如切り込むように居座る、岩のような数台の軍用車両と、挟まれるように止まる一台の警備員の車両も、平等に照らしていた。検問が張られていることが既に周知されているのか、付近の住民の気配はせず、皆関わり合いになるのを恐れて引きこもってしまっているかのようだった。
黄泉川は、巨躯の軍人と対峙していた。もう7月だというのに羽織っているスーツのジャケットはパンパンに張っていて、山のような威圧感を見せているが、それ以上に四角形の顔から見下ろす視線が、ここを一歩も通さないという強固な意志を黄泉川に見せつけていた。仕事柄多くの不良や犯罪者を相手にしてきた黄泉川でも、都市軍隊の軍人と相対するのは冷や汗が流れた。
「あんた、こないだの……」
黄泉川の言葉に、大男は少し眉を上げた。
「そちらの言葉には、嘘が含まれているな」
黄泉川の言葉には直接応えず、見た目通りの低い声で大男が黄泉川に言った。
「そんなことはないんだけれど」
黄泉川もやや見上げる形で返す。車内の少年たちと謎の子どもを安全なところまで送り届けるため、警備員としてここは引くわけにはいかなかった。
「さっきも言ったけど、2級警報はあんたらアーミーの車両展開を、この第七学区で許可するもの。あたしら警備員に対しての逮捕権や捜査権の優越はないじゃん、違う?」
「さすが学園都市の先生様といったところか」
大男の射貫くような表情は変わらない。
「我々とて十分承知の上なのだ」
「なら、通してくれたって―――」
「お前たちと事を荒立てたくはない」
大男は黄泉川の言葉を遮った。
「我々が、ここではいわば余所者だということも理解している。我々は、学園都市と、この国と、その両方の繁栄を護るのが役割だ、故に―――」
軍人はやや手を警備員の車両へと上げて向けた。
「その障害となるような事案は防がねばならん、そちらも願いは同じ筈だ」
「あんたらと一緒にしないでくれ」
黄泉川の口調が強くなった。
「その腰の銃には、当然実弾入ってんじゃん?子どもを傷つける兵器を振りかざしておいてさ」
内心では、応援はまだかと焦り始めていた。ここにいるのは自分と仲間が一人。突破するのはほぼ不可能だ。とにかく、時間を稼がなければならなかった。
「手荒な真似をしたくはないが……」
大男は細めた目で周囲の兵士へ合図を送った。
「中を改めろ!」
一斉に、7、8人の兵士が車両に駆け寄っていく。
黄泉川は舌打ちして首を振った。
「やれやれ、あんたらの立場がヤバくなるじゃんよ?この脳筋―――」
黄泉川の抗議の声は、後方から突如聞こえてきたバチイッという張り裂けるような音と、少年たちのくぐもった悲鳴で途切れた。
黄泉川も、大男も、足を止めた兵士たちも、警備員の車両に雷光のような光が走り、窓ガラスが割れ、車がボンっと一瞬浮き上がってから炎を上げるのを見た。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク