11
黒煙と炎を上げる車から、金田は外へと転がり出た。喉に絡みつくような感覚がして何回も激しく咽せ込んだ。そして開いたドアから高熱の車内を覗き込み、「甲斐!山形!」と仲間へ呼びかけた。
痛っ、熱い―――そんなように呻く甲斐をまず引き出した。
「甲斐!」
顔の間近で再び呼びかけた。甲斐の見た目に大きなけがは無いが、奇妙に目の焦点が合っておらず、朦朧としているようだった。
それから煙に巻かれながらも、奥の山形を何とか引っ張り出した。気を失っていた。
車の反対側では、白いワイシャツにいくつも焦げをつくっている上条が、小男と運転席の警備員を車外へと運び出していた。警備員の女も気を失っているのか、アスファルトに横たわり、身動きをしなかった。
「おい、この野朗ォ!!」
金田は山形を安全なところへ横たえると、立ち上がって上条の陰に隠れるようにしている小男へ怒声を浴びせた。「てめぇの仕業だろ!」
小男は怯えるように金田を見ながら後ずさりした。
「全員、動くな!」
厳しい声が辺りに轟いた。
「監視カメラの遮断はできているか?」
「はい、半径500m以内、対処済みです」
敷島大佐が側にいた黒服の部下に、目配せしながら問うと、部下がすぐ答えた。
「車を消火しろ」
大佐が無線で呼びかけると、警備員の後方にいたアーミーの兵士が消火剤を持ち出し、燃え盛る車両へと噴射した。シャーッという音が響き、白い粉に塗れた車は燻ぶった。
「負傷者はどうしますか?」
「あちらの自業自得だ。そこまでする義理はない」
黒服の部下の問いに対し、にべもなく大佐が答えた。
車両が突然爆発を起こしたことで、その場の交渉の空気は大きく変わっていた。黄泉川にとっては予想外のことで、部下や少年たちを案じる気持ちと、次に打つべき手を考える思考とで、頭が混乱し始めていた。
「これで分かったろう」
大佐が落ち着き払って黄泉川に言った。
「彼は不安定だ。我々が預からなければならない。お前たちの手には余るのだ」
「そう?彼は嫌そうだけど?」
黄泉川は笑みを浮かべていったが、部下が倒れていることもあり、内心は焦りを募らせていた。応援もまだ到着しない中で、学生数人と能力不明の人物を守るのは難しい。状況は良くなかった。
「26号!」
大佐の声に、26号と呼ばれた小男がビクッと震えた。
「散歩は終わりだ。我々と来い」
26号は青白い顔で辺りを素早く見回し、そして、一番側にいる上条を見上げた。
上条は、皺の刻まれたその顔に、見開いた大きな目を見た。眼だけを見ると、不思議と目の前の小男が、大人を怖がる子どものように見えないこともなかった。
「あんたら、本当にこの子を預けていいのか?」
上条は大男の大佐に向かって言った。
「そもそも、この子はあんたらの所から逃げ出して来たんじゃないのか?」
「お前たちには理解できんことだ」
大佐は事も無げに言った。
「分からんのか。今、こうしている間にも、その者の能力は制御が利かなくなっている。我々だけが対処できる」
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