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「だから、さっき説明した通りだよ、なぁ、“先生”!」
金田は声を荒げた。彼らバイカーズは、とある警備員の詰所に連行されていた。金田は殺風景な部屋の中に立たされており、かれこれ1時間近く尋問されていた。自分達を尋問している警備員は、部屋の中に2人いる。1人は大柄な男で、金田達が通う職業訓練校の体育を担当している高場という教師だ。高場は椅子にふんぞり返って座り、太い両足をと両手をそれぞれ組み、角張った顎を余計に突き出すようにして、威圧しながら金田達を問い詰めていた。もう1人は高速道路で金田達を拘束した、ジャージ姿の女性警備員だ。こちらは黄泉川という名前で、金田達の職業訓練校とは別の(多分もっと真っ当な)高校の教師らしかった。黄泉川は入口の扉の前で、腕組みをしながら立っている。何やら物思いに耽っているようで、この小1時間ほど、あまり高場の尋問に口を挟むことはなかった。
「1名が鼻を折り、もう1名が手首を折り、あと1名は全身打撲、レストランの窓ガラス弁償、器物損壊の、オ・マ・ケ、つきだ」
男性の大柄な警備員が、片手をばん、とついて金田に正面から顔を寄せた。「こいつらはすべて、お前たちの敵対チームのメンバーだ。お前らがやったんだろう!金田、お前か?」
高場の重力に逆らうように不自然に固められた前髪が、金田の鼻先まで来たので、あからさまに金田は顔をしかめた。
「ちがいます」
「山形!」
「勝手にチョンボしたんじゃないすか」
「甲斐ィ!」
「俺しょんべん行ってて……」
「ふざけやがって!これを見てみろ」
高場は、タブレットを取り出して甲斐の真正面に突き付けた。
「レストランに突っ込んだやつの、監視カメラの映像だ。ここに映ってる顔は」
高場は静止画の一点を拡大させた。
「お前だろう!」
「そのぉ、やつらがぁ、イケないクスリをばらまいてるっていうんでぇ、これはこらしめてやんないといけないなぁ~って思ってぇ―――」
「じゃあ、なんでまずあたしら警備員や風紀委員に連絡しなかったんよ」
歯ぎしりする高場の背後から、唐突に黄泉川が声を発した。顔を上げて甲斐を見据えている。甲斐は高場に対する舐めた態度を一転、優等生的な笑みを浮かべた。
「はっ、先生方のお手を煩わせてはいけないと判断いたしましたっ!」
こいつ、女相手にあからさまなんだよ。と、金田の隣に立つ、太眉の蛯名が呟いた。職業訓練校には女性教師が殆どいないので、金田もこういった反応をしたくなる気持ちは理解できた。
「ドラッグが関わるとなると、暴走行為どころじゃなく、立派な犯罪じゃんね。そういうことは、君ら子どもでどうこうせず、私ら大人に任せてほしいんよ。」
見栄を張るのかというくらい目つきを険しくする高場をよそに、黄泉川は淡々と言葉を続けた。その目つきは高場と異なり、怒りをはらんだものではなかった。むしろ、残念そうな、過ちを犯した生徒相手にどうすればよいか、悩むような表情だった。金田はそんな黄泉川の顔を直視できず、目を伏せた。甲斐達他のメンバーはどうだか分からないが、こういう“話を聞いてくれそうな”教師相手では、しかも女性となると、普段の態度や言動で反抗しづらくなるのだ。
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