嵐のように灰舞う思い出
休み明けの朝。
会社勤めをしていたころはこんなに憂鬱な時はないと思うくらいに身体を起こすことに億劫になったものだ。
これから長い1週間を過ごすのだと。
だけど、今は少し違う。
これから楽しい1週間が始まるのだと。
待ちわびるように目を覚まし、いつものように身支度をして喫茶店へと続く階段を降りる。
「先輩!おはようございます!」
「おう。……今日はやっかいな客が来るかもしれん」
「やっかいなお客さん?」
先輩はいつものようにカウンター内で前準備に手を動かしているが、どこかいつもよりもキレがない。
喫茶店の制服に着替えた私は先輩に煎れてもらったコーヒーを飲みながら、まだ開店前の店内で一息をつく。
すると、入口の扉が無造作に開いたと思いきや、長身でスタイルの良い女性がタバコを加えながら入店された。
「あ、すいません。まだopen時間じゃ……って、平塚先生!?」
「ん?おや、君は一色か?久しいな。君もここの客だったとは」
「あ、いや……」
「それにしてもその服装はなんだね?少しフリフリが付きすぎじゃないか?君ももういい年齢なんだから……」
「あぁ、やっかいなお客さんって平塚先生のことだったんですか」
先生はカウンター席に腰掛け、先輩から何も言わずに灰皿を受け取る。
記憶にある白衣の格好ではなく、スキニージーンズにレザーコート着飾る格好。
スタイリッシュな大人だと感じさせられる。
「平塚先生。一色は客じゃないんすよ」
「なに?どうゆうことだ?……、ま、まさか!?」
「実は私、ここで……」
「貴様!比企谷の嫁だと言うのか!?」
「「……」」
先生は大袈裟に仰け反りながら先輩と私を見比べると、顔を真っ青にさせながらタバコの灰を辺りに散らばめた。
あぁ、せっかく拭いたカウンターが……。
「……先生、落ち着いて…」
「ええーい!!聞きたくない、聞きたくないぞ比企谷!!おまえも私と同類、天涯孤独を貫く人種だったじゃないか!!」
「だから話を……」
「私は屈指たりせんぞぉ!!おまえのような奴を沢山見てきた、直ぐに私を裏切り幸せを噛み締める。おまえ達は私の不幸を食べて大きくなった幸せの悪魔だ!!」
「……」
「うぅ、私のS2000の助手席はいつになったら埋まるのだ。結婚して子供に恵まれオデッセイに乗り換えることまで考えているというのに……」
「……先生、一色はここの店員です」
「私は独りだからといって時間を無駄にしているわけではない。老後を幸せに過ごせる貯蓄だって……、え?」
先輩は先生の前にブレンドを置くと、先生が散らばした灰を丁寧に拭き取る。
さっきまであんなに静かだった店内は、1人の独りのせいで騒がしく慌ただしい店内へと移り変わる。
まるで冬から夏になったように。
「だから、一色はここで働いてもらってるんですよ」
「ほ、本当に……?」
「ほ、本当ですよー。私、ここで働かせてもらってるんです。……そんな、よ、よ、嫁とか…、今はちょっとまだ…」
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