ああ、そうだ。俺はカッコ悪い。間違ってもヒーローなんかにゃなれはしない。
気がついたら、何処かの部屋にいた。
そこに居たのは、見た目も年齢もバラバラの数人の男達。
そして、その中心に位置する――黒い球体。
何が起こったのか、起こっているのか、さっぱり分からない。
だが、あれだけの激痛もなくなり、怪我一つ見当たらないのに、なぜか助かったという気がまるでしなかった。
……怪我が、痛みがないだと?
なんだそれは。有り得るのか、そんなことが?
一体……何が……どうなってる?
「あれ? ……何だ? 一体、どうなっているんだ?」
「何? 何? どうなってるの? ……うち、確かに死んだはず……」
横を見ると、葉山と相模もそこにいた。血痕ひとつない、綺麗な制服姿だ。
「……な、なに……なに? なんなの? なんなの?」
次第に相模が顔を真っ青にし、ガタガタと震え始める。
……それは、そうだろう。
死をあれだけ間近に感じて、何事もなかったかのように振る舞える奴なんていない。
俺だってこんな意味不明な状況に陥っていなかったら、ガタガタと無様に震えているかもしれない。
葉山が相模の肩を優しく支える。相模が葉山をうっとりとした表情で見上げるが、その葉山も決して普段通りというわけじゃない。顔色は相当に悪い。
「……何か、知っているか?」
「いや、俺も何が何だか……」
「――あの、君達……」
葉山と俺が状況を把握しようとしていると、初めから部屋にいた数人の男の一人が声をかけてきた。
年はそれほどいってない。二十代前半といったところの、真面目風な人だ。
その男は眼鏡をくいっと直しながら、徐に再度、口を開き――
「君達も――死んだの?」
……こいつは今、何と言った?
「死んだって……どういうことですか!?」
「ここにいる他の人達も、君達のように死の直前に――いや、直後にと言った方がいいのかな? 連れて来られてきたんだよ。あの――黒い球体に」
眼鏡の男は、そう言ってこの無機質な部屋の中心に座する、異様な真っ黒の球体に目を向ける。
大きさはバランスボールよりも少し大きいくらいだろうか。だが、余りにも真っ黒で、模様どころか傷一つないそれは、この状況も相まってあまりにも不気味だ。
それに……この男が話す内容も、訳が分からない。異次元過ぎて、ついていけない。
……落ち着け。一つ一つ整理するんだ。混乱するな。
ということは、つまり――
「――皆さんは、その、死んだ記憶が……あるってことっすか? 少なくとも死んだと感じた後に、気が付いたらこの部屋にいたってことですか? 自分で来たとか、誰かに運ばれたとかの記憶はない、と」
「あぁ? なんで俺が! こんな何もねぇクソつまんねぇ場所に来なきゃいけねぇんだよっ!」
俺の疑問に答えたのは、いかにもガラの悪い不良風のチャラ男だった。
その威圧感に相模がひっと小さく悲鳴を上げる。かという俺も表には出さなかったが、実は完全に威圧されていた。思わずごめんなさいっとか言いそうになった。何なら喉元まで出かかってた。
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