ハーメルン
比企谷八幡と黒い球体の部屋
これからよろしくね☆ ぼっち(笑)さん♪


「比企谷~! 葉山く~ん!」

 相模が八幡が来た方向から走ってくる。
 その声に、呆気に取られていた葉山が、目の前の惨状を思い出し、相模に向かって来てはいけないと叫ぼうとする、が、葉山が気を取り直すよりも早く、八幡が瞬時に判断し彼らしからぬ大声を放った。

「来るな、相模!!」
「え、何でよ!?」
「いいから来るな!! そこにいろ!!」

 相模は八幡の横柄な物言いに不満がありそうだったが、八幡の言う通りに素直に立ち止まった。
 周囲の暗さがして、あの距離ならば、この残酷な光景は見ずにすんだだろう。

 本来であれば葉山がすべき仕事は、この悲惨な状況を詳しく知らない、今来たばかりの八幡が代行した。
 葉山は自分よりも遥かに周りのことが見えている八幡の横顔を複雑な思いで眺めていたが、次第に八幡の顔が強張っていくのが分かった。

「葉山……本当ならこの惨劇の理由とか、アイツは何なのかとか、聞きたいことは山程ある……だが、そんなもんは全部後回しだ。一刻も早く、相模を連れて出来る限り遠くに逃げろ」
「な……どうして――ッ!?」

 ゾッ――と。
 葉山は周囲の温度が一気に下がった気がした。

 ゆっくりと、八幡の視線の先に目を向ける。
 目を背けたくはあるけれど、視線が勝手にその存在に引き付けられる。


 ねぎ星人父が――威風堂々と立ち上がっていた。


 銃弾を五発喰らっても、流星のごとき体当たりが直撃しても、奴は倒れない。

 その存在が放つ殺気は衰えを知らず、鋭い刃物のように――葉山を貫く。

 葉山の体がガタガタと震える。

 嫌だ。
 嫌だ。嫌だ。
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。いy――

「何してんだ葉山!! 早く、相模を連れて逃げろ!!」

 その声を聞いた瞬間、葉山は一目散に逃げ出した。

 背中を押してもらえた気がした。この恐ろしい現場から、今すぐに逃げ出していい理由を貰えた気がした。

 逃げる。逃げる。逃げる。
 一刻も早く。全力で。全速力で。震える膝を気力で抑え付けて。

 途中、同じようにねぎ星人父を見て、顔面蒼白で佇んでいた相模の腕を取って、足を止めずに葉山は叫んだ。

「早く逃げよう!! 早く!!」
「で、でも、比企谷がまだ――」

 その時、葉山はようやく、八幡に再び全てを押しつけたことに気付いた。

 思わず葉山隼人は振り返る。
 比企谷八幡は、一切こちらを見ていない。

 ただ、葉山達とねぎ星人父の間に、自身の体を入れるだけ。
 背負うように。庇うように。

「――――………ッッ!」

 だが、今回はこれまでのような奉仕部への依頼とは訳が違う。 

 死ぬ。殺される。
 このままだと、彼は――比企谷八幡は明確に死を迎える。

 しかし、葉山は――足を、止めることが出来ない。
 立ち止まり、引き返すことが――震える足を、止めることが出来ない。

「――大丈夫、だ。彼はスーツを着ている。さっきの凄い勢いの体当たりも、あのスーツのお陰だろう。彼は俺達よりも、あの化物に対抗できる。…………大丈夫だ。……死なない。……きっと、死なない」

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