ハーメルン
悪徳の都に浸かる
018 交錯する思惑の先に重なる決意

 23


 ――――深夜三時。使用者もまばらな地下駐車場。そこにバラライカとロック、そして板東の姿があった。
 周囲はコンクリートの壁に囲まれ、逃げ場など存在しない監獄のような印象を抱かせる。この場にバラライカを呼び出したのは板東だ。鷲峰組で意見を固めたため、その会合を行いたいと連絡を寄越した。バラライカは夜更けであることなど気にも留めず、ロックを引き連れてこの場へと赴いた。

サシ(・・)の会議にしては面白い場所を選んだものね。方針とやらはお決めになって?」
「姐さん、もう一度聞きまっせ。肩ァ並べて一緒にやってく気にはならへんのか」

 その言葉に、バラライカは表情一つ変えない。

「それは私に問うことではありません。貴方がたが問われることです。そして加えるならば、現状そう悠長に事を構えてもいられない」
「……どういうことや」

 懐から取り出したパーラメントに火を点け、バラライカは告げる。それは彼女にとっても、そして鷲峰組にとっても凶報に違いないものだった。

「香砂会も我々と同じロアナプラの人間を雇っていたようです。それもとびきりの猛獣を」

 ピクリと板東の眉が動く。

「……なんやと」
「ハッキリ言いますが、その男はその気になればこの街を火の海にすることも可能です。我々軍隊が為す事と同レベルの事を、奴は単身でやってのける」

 ウェイバー、そう男は呼ばれているのだとバラライカは板東に伝えた。
 俄かには信じ難いことである。ホテル・モスクワと同等の事をたった一人で遂行してしまう人間がこの世に存在しているなど。
 だがバラライカ、そしてロックの顔色を見るに冗談や酔狂の類ではなさそうだ。
 馬鹿げている、と吐き捨てたい気分だった。一体奴らは東京をどうしようというのか、焦土にでも変えようとしているのではないだろうな。そんな考えが思考の片隅でちらつく。

「板東さん。ウェイバーがこの件に関わってくるとなると、我々も本腰を入れなくてはなりません。早急に香砂会組長とその家族を誘拐しなければ」
「……そいつは出来ん相談や」
「貴方はあの男の恐ろしさを知らない。生半可な覚悟では、鷲峰組は消えて無くなることも有り得る」
「やとしてもや」
「……残念、本当に残念ですよ板東さん。もう少しだけこの関係が続いていれば、私も気が楽だったのですが。まあいいでしょう、瑣末なことだ」

 言って咥えていた煙草を路上に吐き捨て、バラライカは踵を返す。話すことなどこれ以上ないと言外に伝えるように。
 ロックもそれに慌てて続くが、そんな行動を許さない人間が居た。板東だ。彼はコートの内側に隠し持ってきていた白鞘を流麗な動作で抜き、背中を見せたままのバラライカへと突進する。

「待たんかい。まだ始末が残っとるんやぞ、この外道ォッ!!」

 バラライカの心臓を目掛けて、鋭利な刃が突き出される。
 しかしその刃が彼女の皮膚を切り裂くことは無かった。何処を狙われるのか予め分かっていたかのような動作で身体を横にずらして板東の一突きを躱すと、振り向きざまに顔面へと肘を叩き込む。
 ベキリと骨の折れる粉砕音が地下駐車場に響く。バラライカは追撃の手を緩めない。残った手で板東のコートの襟を掴みそのまま引き寄せ、白鞘を握っていた右腕を血塗れた手で握る。自由の利かなくなった坂東の右腕を、一切の容赦無く叩き折った。くぐもった悲鳴が漏れる。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/8

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析