018 交錯する思惑の先に重なる決意
痛みに顔を歪める板東の背後へと周り首を締める。
完全にバラライカの一人舞台だった。
ギリギリと板東の首に力を込めながら、彼女は板東の耳元で囁く。
「白兵戦は久しぶりだが、身体は覚えているものだな。さてロック、私が今から言うことを訳せ。なるべく強い言葉でだ」
「で、でも……」
「訳せ」
有無を言わせぬバラライカの威圧感に、ロックは従う他無かった。
「今夜は特別だ、本当のことを話してやろう」
顔を血に染めながらも戦意を失わない板東に敬意を表すように、彼女は言葉を続ける。
「肩を並べてやっていく。成程確かにそんな選択肢もあるだろう。だがそれは事務屋の仕事だ、私には必要がない」
分かるか? そうバラライカは板東へと問い掛けた。
「私がこの国で望んでいるのは破壊と制圧。他の一切には興味がない、妥協もない。私はな、地獄の釜の底でどこまで踊れるのか、それ以外に興味がないんだよ」
「……ッ!」
「しかも相手はウェイバーだ。私と共に地獄の最下層で踊る極悪人。相手としてこれ以上適している人間も居まい」
鷲峰組と香砂会。其々がホテル・モスクワとウェイバーを日本へ呼び寄せた時点で、あるいはこの未来は確定していたのかもしれない。彼を、彼女を日本へ招くことが無ければここまで大きな事態には発展しなかっただろう。
だがそれは過ぎた事。今更何を思った所で、この現実は変わらない。
「賽は投げられた。そういうことだ、バンドウ」
「……ク、ガッ……!」
締める力が更に強まる。
「それでは時間もない。……また、いずれ」
そう言った直後、バギンッと一際大きな破砕音。板東の首の骨がへし折られる音だった。
力の完全に抜けた骸を地面に放り捨て、バラライカは携帯を取り出す。連絡先は恐らくボリスだろう。
彼女が通話する様子を、ロックはただ呆然と眺めていることしか出来なかった。
「私だ、状況は終了した。大きめのトランクを一つ持って迎えに来い」
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「……ック、ロック!」
耳元で名前を叫ばれ、ロックは鉛のように重たい瞼をゆっくりと持ち上げた。視界いっぱいに広がるのは眉尻を下げるレヴィ。
どうやら自分はホテルに戻り、テーブルで酒を呷ったまま眠りに落ちてしまっていたらしい。シャワーも浴びずにいたからか身体が汗ばんで酷く気持ち悪い。テーブルの上には灰皿とウイスキーボトル、倒れたグラスがそのままになっている。
まだ酒が抜けていないのか霞がかった頭を覚醒させるために数度頭を横に振る。
「大丈夫か、ひでえ汗だぜ」
「寝てたのか、俺……」
「一、二時間てとこだ。なんだかうなされてたぜ、古いビュイックみてえな息してよ」
ロックの向かいに置かれていた一人掛けのソファにレヴィも腰を下ろす。
横になっていたグラスを手に取り、半分程空いたボトルウイスキーを注ぐ。
「なんだか悪い夢を見てたみたいだ」
「深酒はいけねえな、シャワーでも浴びてきたらどうだ。これから慌ただしくなる、そう呑気に構えてもいられねえぞ」
ストレートウイスキーを一息に呷り、レヴィはロックを見据えた。
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