024 悪党達の輪舞曲
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――――東の空は淡く白み始め、日の出を今か今かと待っている。数時間前まで空一面を覆っていた雪雲は遠くの空へと流れていき、このまま行けば快晴になるだろうことは想像に難しくなかった。
そんな空の下、ロックとレヴィは港に停泊している一隻の船舶の前に立っていた。マリアザレスカ号。ホテル・モスクワの所有する小型客船の皮を被った移動要塞である。扱いとしては貨客船に分類されるこの船舶だが、大国ロシアを裏側から牛耳るマフィアの所有船舶である。当然、只浮くだけの代物ではない。これ一隻で戦禍へと身を投じられるだけの武器弾薬が保管され、外壁には幾つもの銃口が埋め込まれている。敵が近付こうものなら容赦無く蜂の巣に出来るだけの武装が施されているのだ。
そんな完全武装が施されたマリア・ザレスカ号の船内に、まずはロックが足を踏み入れる。次いでレヴィもその後に続いた。
船内は異様な静けさに包まれていた。明け方とは言え、常時数人の見張りを配置しているバラライカの周囲にしては不気味な程に静かすぎる。ロックとレヴィの二人はその違和感に気が付いていた。
「レヴィ」
「ああ、姉御にしちゃあ警備が薄すぎる。滅多なことじゃこんな態勢は取らねえだろうさ」
ということは、今がその滅多な状況である可能性が高い。
ロックの頭に真っ先に浮かんできたのは、鷲峰組、ひいてはウェイバーとの徹底抗戦の下準備。既に行動に起こせる段階にまで進んでいるのだとすれば、時間は一刻の猶予も無い。
「……急ごう」
ロックは今一度気を引き締め、バラライカが居るはずの特別室へと向かった。
扉の前にまでやって来たロックは何度か深呼吸を繰り返し、意を決して扉をノックする。船内の静けさに反して、返事は直ぐに返って来た。
「入りなさい」
言われるがままロックは扉を開き、その後ろをレヴィも追従する。
室内には備え付けのデスクに着くバラライカと、その背後で直立不動を貫くボリスの姿があった。二人の様子は別段いつもと変わらない。しかしそれを嵐の前の静けさだと感じてしまう。杞憂であればそれで良い、だがそうでなければ。ロックは胸中に渦巻く不安を必死に押し留め、一歩前へ出る。
「昨晩は一体何処へ行っていたのかしらロック。油を売っている時間は無いのよ」
「……バラライカさん、俺は」
「ロック。質問しているのは私よ、先ずは私の質問に答えなさい」
有無を言わせぬその発言に、ロックは奥歯を噛み締めた。
「ヘイ、ヘイ。姉御、どうせそっちでもう調べはついてんだろ? だったら今更聞くようなことでもねえよ」
「私はロックの口から直接聞きたいのよ二挺拳銃」
レヴィの言葉も受け付けず、バラライカは真っ直ぐロックを見据える。切れ長の瞳に見つめられ、心臓を鷲掴みにでもされたかのような息苦しさを感じた。彼女はまだ何もしていない。だというのに、この暴力的なまでの威圧感。無意識のうちに頬を冷や汗が伝う。その汗を袖口で拭い、言葉を吟味しながら舌に乗せる。
「昨晩は鷲峰組の屋敷へ向かった後、ヒラノボウルへ向かいました」
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