ハーメルン
悪徳の都に浸かる
009 第一の分岐点

 6



 修羅場、死線と呼ばれるものを、サハロフは幾度となくくぐり抜けて来た。
 バラライカをトップとした第318後方撹乱旅団・第11支隊にその身を預けていたときも、この街にやってきて遊撃隊(ヴィソトニキ)と呼ばれるようになってからも。一般人であればまず間違いなく死んでいただろうという窮地を、その身一つで乗り越えてきた。
 だからこそ彼らはロアナプラの実質的支配者と呼ばれているのであり、統率された彼らに恐れるものなどないと言わしめる程に畏怖されているのだ。
 サハロフは優秀な戦士である。
 そして、メニショフもまたサハロフと同じくとても優秀な戦士であった。

 ――――その優秀な戦士の生首が、幼い少年の白い手にあった。
 無造作に髪の毛を引っ掴まれ、切り落しただろう断面からは今も粘ついた液体が間断無く垂れ流れている。開ききった彼の両眼に、一切の光はない。

 銃口を入口に立つ少年へ向けたまま、サハロフはその場から動けないでいた。
 彼の後ろには足が竦んでしまっているのか動けないメリッサと、こんな状況であるにも関わらず身じろぎ一つしないウェイバー。出来ることならウェイバーに起きてもらいたいが、深酒をしているらしい彼が自発的に目覚めることはおそらくない。
 かといってここで大声を出して彼を目覚めさせようとすれば、その声に反応して周囲から一般人が集まってきてしまい余計な混乱を招く恐れがある。
 
(……やるしかない)

 不幸なことに、携帯電話はメニショフが持っていた。あれはバラライカがツーマンセルで行動させる際に一組ずつ支給したものだ。中にはバラライカへの直通の連絡先が登録されているが、それを持っていたメニショフの胴体は見当たらない。彼女へこの事態を知らせることができれば、あるいはこの状況を打破することもできたのかもしれないが。
 サハロフは銃を握る手に力を込める。
 まさかこんな年端もいかない子供が、と思った時だった。

「ダメよ兄様、独り占めはいけないわ」

 少年の後方、ドアの向こうから別の声が聞こえてきたのだ。
 まさか、とサハロフは思う。

「ごめんよ姉様。このおじさんが強かったから、思わず楽しくなっちゃって」
「いけない子ね兄様、私を仲間はずれにするなんて」

 少年の後ろから現れたのは、少年と全く同じ顔をした少女だった。少年が髪の毛を同じくらいにまで伸ばせば、見分けもつかなくなってしまうのではないかと思うほどによく似た二人だ。

(二人組、だと――――!)

 バラライカが提案したツーマンセルは、対個人を想定してのものだった。しかし、相手は二人。ツーマンセルでは不十分、万全を期するのであれば、少なくともスリーマンセル以上で行動させなければならなかった。

「今度は私にやらせて、いいでしょ兄様」
「わかったよ姉様。おじさんを天国へ導いてあげてね」
「もちろんよ」

 少女はその両手に長い物体を抱えていた。キーホルダーのついていた細長い布を取り外すと、そこから姿を見せたのはBAR。ブローニングM1918自動小銃だった。
 自身の持っている拳銃などでは太刀打ち不可能な代物を前に、サハロフは瞬時に攻撃よりも回避を選択。尚も硬直しているメリッサを抱え込むような形でカウンターの中へと飛び込む。

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