13:団欒と後片付けと
『法的措置』という重々しい単語に、シナリオを知ってはいたが言葉に詰まる士郎と、何も知らず何も言えない大河を尻目に、セラは話を続ける。
「とにかく、こんな非常識なことは許されません。
旦那様に反対された仲とはいえ、実子のイリヤスフィール様に何も言わず、
こちらの衛宮士郎様にも何も告げずに亡くなられたとは。
調査のために、我々は冬木に滞在いたします。
当面、証拠隠滅の監視に、こちらのセイバーをつけさせていただきます。
我々もホテルのキャンセルが整い次第、衛宮邸に移りますので」
「ええっ、ちょっと待ってください。
士郎はそんなことしないし、男の子ですよぉ!
こんな可愛い子と同居させるなんて、何かあったら……駄目、駄目よ。
おねえちゃんは許しません!」
「藤村様とおっしゃいましたね。後見人のお孫さんだとか。
失礼ながら、これは感情ではなく法的な問題です。
あなた様は衛宮家に何らの権利も有しませんので、悪しからず」
ふだんは元気いっぱい、絵に描いたような美人ではないが、明るく親しみやすい大河の顔が固まった。
「は、はい?」
「こちらのイリヤスフィール様は、
衛宮切嗣氏がしかるべき手続きを行っていたら、遺産の相続権がございました」
真っ白な顔の大河に、白皙の怜悧な美女はやや口調を緩めた。
「むろん、当家の資産に比べたら微々たるもの。
何も知らぬご養子が、困窮するような措置を取ろうとまでは思いません。
しかし、衛宮の姓と日本の国籍が、父のせいで得られなかったとは……。
家庭教師にすぎぬ私であっても、許しがたきことです。
お嬢様の心は、いかばかりかとお思いですか」
「あ、あの、でも、それは士郎のせいじゃ……」
なんとか口を挟もうとした大河だが、すぐに氷壁にぶち当たることになる。
「おっしゃるとおりです。たしかに衛宮士郎様のせいではありません。
しかし、死後の認知の請求は、法に定められた子どもの権利です。
お嬢様にとっても、当然の権利なのです。
あなた様は教職におられるとうかがっておりますが、
よもや否とはおっしゃいませんよね」
「う、うう……」
ぐうの音も出ないとはこのことだった。気の毒になってくる凛だ。凛が大河の立場でも、弁護の術が見つかりそうにない。
理屈と感情の双方に訴え、反論を封じ込める。相手の弱点を狙い澄ました、この根性の悪い台詞の製作者もアーチャーだった。
士郎が口にした、姉貴分の藤村大河と妹分の間桐桜。その立場や性格、士郎との関わりを聞き取り、こうした台詞を作成した。誰が誰に対するか、その配役も含めて。
凛でも薄気味悪くなるぐらいの的確な配役であり、台詞回しであった。それに対して、学校では無愛想で口下手な衛宮士郎が、驚き慌て、困り果てた表情を見せる。台詞はある程度仕込まれたものだが、発露する感情は自然なもので、演技ではないのだ。だから身近な女性二人も、彼を不審に思わない。
だって嘘ではないのだから。イリヤに関する話は、おおむねノンフィクションであり、登場する人物、団体等は実在する。だからこそ、こじれているわけだが。
「こちらのセイバーは、メイド見習い兼お嬢様の護衛で通訳です。
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