14:素人歴史愛好家
――ひとりぼっちになってしまった『彼』は、父の会社の弁護士の助けを借りて、負債の清算に奔走した。
失われてしまった、父を含めた十五人の家族。でも、彼らには本当の家族がいた。天涯孤独になってしまった『彼』とは違って。
まずは、その謝罪と賠償。浴びせられる罵声、それよりも遥かに堪えるのが悲嘆と慟哭。失ったのは『彼』も同じ。同じように振舞えればどんなによかっただろうか。
上に立つ者は、その地位に応じた責任と義務を同時に負う。『彼』はそれを負債と共に相続したのだから。
次に、船と一緒に宇宙の藻屑となった積荷の賠償。金額や物資だけの問題ではなく、規定の期日に届かなかったこと。失われた信用に必死に頭を下げて回った。
『彼』の父は、金育ての名人などと渾名された商人で、保険と貯蓄と帰ることもなかった地上の家の代金で、なんとか清算することができた。借金がないだけましといったところだった。
あてが外れてしまったのは、『彼』の父の骨董コレクションが、一点を除いてみな偽物だったこと。本物ならば、大学に通い、歴史学者となっても何不自由なく一生が送れただろうに。
無料で歴史を教えてくれる、そんな都合のいい学校が……あった。自由惑星同盟軍士官学校戦史研究科。『彼』はぎりぎりで願書を提出し、なんとか合格したのだ。宇宙船育ちで、運動体験に乏しい『彼』にとって、過酷な学校生活の始まりだった。
実年齢より二、三歳若く見える。これは十六歳の少年にとって、重大な肉体的ハンデだった。必死で行軍練習や実技に取り組んでも、及第点ぎりぎりを取るのがやっと。その辛さに、いっそあの時受験のために下船などしなければと、何度思ったことだろう。
そんな『彼』にも励ましてくれる友達が出来た。同室だった性格のいい優等生と、学校の事務長の娘。どちらも金髪碧眼で、『彼』にとっては眩しい光のような存在だった。『彼』はおずおずと手を伸ばした。彼と彼女はその手を握り返し、陽だまりに連れ出してくれた。
――私は、生きていてもいいのだろうか。
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