ハーメルン
Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた
閑話2:名前の意味

 凛とアーチャーは警戒しながら階段を下り、到着したタクシーに乗り込んだ。むろん、従者は霊体化して。温かい車内の座席に納まると、凛はふと疑問が湧いてきた。

『ねえ、アーチャー。あなたの国の第三艦隊の旗艦が【ク・ホリン】だったのよね』

 凛はアーチャーに心話で問い掛けた。柔らかな肯定が返ってくる。

『ああ、そうだよ』

『じゃあ、あなたの旗艦は? なんて名前なのよ』

 第三艦隊とヤン艦隊。ナンバリングの中に混じる司令官のファミリーネーム。通常は一万二千隻、最大で二万隻を超える艦隊。兵員数は政令指定都市の人口レベル。アーチャーはそう言っていた。だが、その規模に個人名が冠せられるのは普通ではない。

 この頼りないサーヴァントが、とても高位の軍人だということに、凛は遅まきながら気づいたのである。彼の部下にとっては、司令官自ら銃を持ち出し、身を守るようなことがあってはならなかっただろう。

『【ヒューベリオン】さ。この時代だと【ヒュペリオン】と発音するようだね』

『そっちはギリシャ神話っぽい名前ね』

『そのとおり。土星の衛星の【ヒペリオン】と同じだよ』

 アーチャーは解説してくれたが、凛は気まずく心中に呟いた。

『ごめん、全然知らないわ』

『まあ普通はそうだろう。そんなに有名な神様じゃないからね。
 私も旗艦になってから、その名前を知ったぐらいだよ』

『へえ、それで、どんな神様なの?』

『ゼウス以前の古い神々の一人で、
 天体の運行と季節の変化を人間に教えたとされているそうだ。
 一説には、太陽神ヘーリオスの別名だとも言われている。
 エピソードらしいものはこれぐらいかな』

 たしかに派手な逸話を持つ神ではなさそうだ。

『あ、そうなの……。ところでギリシャ神話の神には、名前に意味があったわよね』

 有名どころではヘラクレス。『ヘラの栄光』という意味である。彼の苦行の数々が、女神ヘラの差し金であったことを考えれば、なんとも皮肉と言うか……。

 女は恐ろしい。

『よく知ってるね。さすがは優等生だなあ』

 ヤン曰く、約五千人の同期生の中の上の成績で卒業した。彼が告白した射撃や白兵戦の駄目さをカバーして、なお中の上ということは、得意教科は突き抜けて優秀だったということになる。

 この自己評価が低いサーヴァントの語らぬ点をこそ、凛は汲み取らないといけないのだろう。

『あなたには負けるけどね。で、意味は?』

『【高みを行く者】だ』

 智将ヤン・ウェンリーの旗艦の名は、主にぴったりな名前であった。千六百年前の遠坂凛が、それを真実の意味で知ることはないのだが。

 ――今はまだ。

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