第15話 恩人の娘 魔想志津香
GI0998 冬
-カスタムの町-
「飲むといい、暖まるよ」
「おかわりもあるから、欲しかったら言ってね」
町の前で拾った少年と少女の二人組を自分たちの屋敷へと連れてきた夫妻。二人とも酷い怪我を負っていた。少年の方は全身傷だらけであり、少女の方は顔のある部位に大きな傷を負っている。まだ十にも満たないであろう彼らに、一体何があったというのか。今この場には夫妻と少年の三人が机を挟む形で向かい合っている。少女の方は酷く疲れた様子であったため、既に寝室で眠っている。聞けば、彼の双子の妹らしい。ホットうし乳の入ったコップを少年の前へと差し出し、それを少年が口にするのを確認してから屋敷の主人が口を開く。
「私は魔想篤胤。この町に最近移り住んできた者だ。こっちは家内のアスマーゼ」
「よろしく。怪我の具合は大丈夫?」
「……」
無言のままコクリと頷く少年。だが、その目が虚ろである。その瞳の奥にある濁りは、とても幼い少年がするようなものではない。篤胤は少年を刺激しないよう、ゆっくりとした口調で言葉を続ける。
「……君の名前、聞かせて貰っても良いかな?」
「……ルーク・グラント」
「ルーク君か。うん、良い名前だ。それで、もしルーク君が嫌でなければ、何があったのか聞かせて貰っても良いかな?」
「……」
俯いてしまうルーク。だが、ここで退くわけにはいかない。
「その傷の量は尋常ではない。普通ではない事態に巻き込まれた事も、それを言いたくない事も何となく察している。だが、ここは私を信じて話して欲しい」
「少しでもルーク君の気持ちが楽になるのなら、話して欲しいわ。大人を頼って……」
「……全部……自分のせいなんです……」
まるで何かに縋るように声を絞り出すルーク。その口から語られるのは、ここに至るまでの道程。平穏に暮らしていたこと、それが一変したこと、その原因を担ったのが自分であること、住んでいた町を追われたこと。ルークの過去については、後にまた語ることになるので今は置いておくとしよう。ルークが全てを話し終えると、篤胤は噛みしめるように天井を見上げていた。隣に座っているアスマーゼの表情も曇っている。それは、目の前の幼い少年が体験するには、あまりにも荷が重すぎる出来事。
「……ルーク君、君は悪くない……」
「でもっ! 自分のせいで……」
反論しようとしたルークの体を、そっとアスマーゼが抱きしめる。
「悪くない……ルーク君は悪くないわ……」
「でも……でも……」
「一人で抱え込まないで。大丈夫、もう大丈夫だから……」
「ぐっ……あぁっ……うぁぁぁぁ……」
アスマーゼの胸の中で涙を流すルーク。張り詰めていたものが一気に解けたのだろう。罪の意識と、それでも妹を守らなければいけないという気持ちから、彼の心は限界ギリギリであったに違いない。目の濁りが、いつの間にか消えていた。
「……もし君たちが嫌でなければ、しばらく一緒に暮らしてもいいと思っている」
「夫婦二人で暮らすには少し大きい屋敷なの。遠慮しなくていいのよ」
魔想夫妻の言葉がルークの心に染み渡っていく。アスマーゼの胸の中でゆっくりと首を縦に振るルーク。こうして、ルーク兄妹は少しの間魔想夫妻と共に過ごす事となった。それはたった数日であったが、ルークにとっては忘れられぬ日々。
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