ハーメルン
ランスIF 二人の英雄
第6話 地下に沈んだ町


GI1009
-自由都市カスタム-

 リーザス誘拐事件から話は数年ほど昔に遡る。自由都市地帯のほぼ中央に位置する町、カスタム。その町の一角に館が建っている。どこか趣のあるその館の入り口に、看板を立てかけている一人の中年男。

「ふぅ……」
「ラギシスさん。以前話していた塾、本当にやるつもりなんですか?」
「ええ、私の力が少しでも町の役に立つのであればと思いましてね」

 通りがかりの住人にそう振り返りながら答える中年の男。男の名はラギシス・クライハウゼン。このカスタムに暮らす魔法使いであり、その人当たりの良さから住人からの信頼も厚い男である。ラギシスはこの年、カスタムで魔法塾を開塾する。自身の魔法を前途ある若者に受け継いで貰い、この町の守護者として育って欲しいというのが彼の弁であった。

「では、決定という事でよろしいですな?」
「若い娘を生け贄に捧げるみたいでどうも……」
「ラギシスさんなら大丈夫ですよ」

 開塾を受け、カスタムの町では一つの事項を決定する。それは、ラギシスの言う町の守護者となる者を育成するため、三人の才能ある娘をラギシスに弟子入りさせるというものであった。当然、幼い娘たちにそのような重荷を背負わせる事に初めは疑問の声も挙がったが、三人の娘は彼によく懐き、魔法の修行も自ら進んで行った。三年後のGI1012年にはもう一人幼い娘が弟子に加わるが、こちらもすぐにラギシスに懐いた。

「今日の授業は草原で行う。さあ、移動しよう」
「はーい!」

 ラギシスが幼い娘を引き連れて町の中を歩く。四人の娘と一人の中年魔法使い。その姿を見た住人の一人がボソリと呟いた。

「師匠と弟子、というよりは、まるで親子のようだな」
「何を今更。ほら、見てみろよ」

 その呟きを聞いていた別の住人がラギシスたちを指さす。聞こえてくるのは、仲睦まじい声。

「ラギシス。今日の授業は攻撃魔法を教えてくれるのよね」
「えー……今日は可愛い魔法がいいなー。ねっ、ラギシス!」
「そうだな。今日は……」

 少女たちは、他人であるラギシスを呼び捨てで呼んでいた。だが、それは侮蔑や軽蔑と言った感情からきているものではない。真に彼の事を信頼している証であった。

「ラギシスさんは、とっくに彼女たちの育ての親だよ」


「うわぁぁぁ、きれーい」

 カスタムの外れにある草原にラギシスと娘たちは立っていた。ラギシスが軽く腕を振るうと、その腕から色とりどりの花びらが宙に舞う。ラギシスの周りを囲むように立っていた娘たちはその魔法に驚くが、一際大きな反応を見せているのは紫色の髪をした娘だ。まだ入塾して間もないこの娘は、目にする魔法全てが新鮮であった。宙を舞う花びらを、目をキラキラと輝かせて見ている。

「本当、綺麗ね」
「そんなのより攻撃魔法を教えて欲しいわ」
「もう……」

 うっとりとした目で花びらを見ていた赤い髪の娘がそう口にすると、隣に立っていた緑路の髪の娘がツンとした態度でそう答える。何かにつけて攻撃魔法を習おうとする娘に青い髪の娘がため息をつくが、ラギシスはそれを微笑ましい顔で見ている。本当に不満に思っている訳ではない事をラギシスは知っているからだ。

「それでは、こういうのはどうかな?」

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