その11:家族仲良し
空は何時もの次元空間のうねうねした混沌ではなく、どこまでも続いている蒼穹。
太陽は発光ダイオードのように綺羅びやかに輝き、道に並ぶは住宅やら高層ビルやら、素材は様々で、まるでクレープをミキサーに突っ込んだみたいな有様だった。
匂いは潮の香り。
海を感じさせる町、それが此処海鳴の町であった。
「う~ん、なんだか久しぶりだなぁ」
とぼくは呟くけれど、ぼくが時の庭園に攫われてからまだ10日しか経っていないのだ。
1ヶ月の3分の1、1年の36分の1しか過ぎていない。
枕に慣れるぐらいの長さであったのは確かだけれど、寝起きに今自分の居る場所が何処か未だに悩むぐらいの短さであった事も確かだ。
それにしても、こうやってある期間を一定の期間の割合で考えていると、数字の持つ不思議な力に驚かされる物であった。
例えばぼくの持っている千円札も、翠屋のシュークリーム換算で考えると驚く程高価に感じ、分厚い大学ノート換算で考えるといかにもしょっぱい物である。
なのでなるべく高価に感じるようにしたほうが気分がいいけれど、それはそれで時々自分が思っている程お金持ちじゃあないと気づくと傷つきそうだ。
ぼくは少し悩んだ後、靴を放り投げ、靴がぴたりとぼくのほうを向いて表裏は正しい位置になったので、ううむと唸った後、シュークリーム換算はやめる事にした。
フェイトちゃんのジュエルシードは3つ目が手に入り、ぼくがすっかり消化してしまった物を含めると4つになった。
順調と言えば順調なのだが、先日そんなフェイトちゃんとなのちゃんとに時空管理局という組織の介入があったのだそうだ。
時空管理局は、簡単に言うと次元世界のお巡りさんみたいな物らしい。
ぼくはなんだかお巡りさんと聞くと犬のお巡りさんを想像してしまうので、アルフさんが婦警姿で歩きまわる所を想像してしまい、妙な気分になる。
アルフさんは、婦警にするにしては色気があり過ぎであった。
しかもその事で後でプレシアさんに頬をつねられたりと、踏んだり蹴ったりである。
頬をつねるぐらいならぼくは唇を差し出し、アヒル口にされてもいいぐらいだと言うのに。
閑話休題、兎も角法的機関の介入があったため、プレシアさんは何かを心に決めたようである。
初対面の頃から何かに迷っているような瞳をしていたプレシアさんだったので、良いことではあるのだけれど、同時にその眼はなりふり構わずにジュエルシードを使うような眼にも見える。
そんなプレシアさんは、なにか思う所があったのだろう、ぼくに家族に一旦お別れを言ってらっしゃいと言った。
どういう風の吹き回しだろうと思ったけれど、ぼくはプレシアさんの声が伸びきったゴムのような調子だったので、切なくなって思わず頷いてしまったのだった。
で、今居るのが此処海鳴。
遠くからフェイトちゃんがぼくを監視しているらしく、何か危険があれば必ず助けてくれるらしい。
まぁ、友達だしフェイトちゃんは助けに来てくれるだろう、と甘く考えていたのだけれども、その日からフェイトちゃんは決してぼくと視線を合わせないようにしていた。
まるで丸い大岩のような頑固さで、その頑固さは坂でもあればこっちを轢き殺そうとしてくるぐらいに強固であった。
これは期待できないな、と思いつつも、家族には会っておくべきだし、とぼくは海鳴にやってきたのであった。
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