序章
―――西條拓巳、という一人の少年が居た。
「三次元に興味は無いよ」と言い切り、老朽化し始めたビルの屋上に設置された基地(ベース)と呼ぶコンテナハウスで、大量の美少女フィギュアに囲まれながら生活する、引きこもり一歩手前の高校二年生。
人との直接的なコミュニケーションを嫌い、最低限の外出しかしないネット依存症の少年。
「疾風迅雷のナイトハルト」というハンドルネームで一日中ネットゲーム―――エンスパイア・スウィーパー・オンライン、通称「エンスー」―――をプレイし、学校は出席日数を計算して必要以上に出席しない。
引っ込み思案で、人と話せば必ずと言って良いほどに呂律が回らず、それが女性だった場合には最悪パニック状態に陥ってしまうほど。
周囲からは引きこもり、もしくはキモオタと認識されているが、引きこもりの部分だけは本人的には違うらしく、それを否定している。
強い妄想癖があり思い込みも激しく、しばしばネガティブな方向へと思考が暴走し被害妄想に陥ってしまうが、逆に辛い現実から逃避し只管自分に都合のいい妄想をしてそれに浸ることもあり、常に情緒が安定しない。
その妄想力の強さたるや、自分の好きなアニメ作品―――ブラッドチューン・THE ANIMATION。通称「ブラチュー」―――のキャラクター、自称「僕の嫁」の【星来オルジェル】を脳内に投影し、その自立した人格との会話が可能というレベルにまで達していた。
所謂、空気嫁、もしくは脳内嫁である。
他人から見れば、情けないキモオタ。
自らの意に沿わない現実に直面するとすぐに逃げ出し、しかもその原因を他人の所為として責任転嫁するダメ人間。
……それが、西條拓巳という少年―――その、【設定】だった。
「―――あなたは、おにぃ」
しかし、そんな彼にも一つの転機が訪れる
―――【ニュージェネレーションの狂気】……通称、ニュージェネ。
彼の住む渋谷で起こった、連続猟奇殺人事件。
西條拓巳は自らの意思とは何ら関係なく、その吐き気すらをも催す程の狂気に巻き込まれる事となったのだ。
……否、巻き込まれたのでは無い。
【西條拓巳】がその事件に関わることは、最初から決まっていたのだ。
―――彼が【ニシジョウタクミ】としてこの世界に産まれた時から、既に。
「―――あなたは、にしじょうくん」
彼が狂気に触れる発端となったのは、エンスーのプレイヤー間で行われているチャットだった。
親しい友人であった【グリム】との会話中、突然チャットに参加してきた【将軍】というハンドルネーム。
その【将軍】から、成人男性が壁に十字の杭で張り付けられて殺されている画像が送られてきたのだ。
……後に、ネットで「張り付け」と呼称される事となるニュージェネ第三の事件。
この時点では未だ起きていない事件であり、誰も知りえるはずも無い殺害現場。犯行予告とも取れる画像。
それが、拓巳の日常が非日常へと姿を変えた、きっかけ。
―――この時に初めて【西條拓巳】は、【将軍】という存在を知ったのだ。
「―――きみは、たくみ」
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