第13章 Empty bottom of the ;chaos
アーニャにとって、ネギことタクは最初から情けない存在だった。
女の自分より強い男の子の癖に運動は苦手だし、すぐ泣くし、背は小さいし。何をするにも文句を一通り言ってから、しかもこっちが無理矢理急かさなければ行動しない。
頭は凄く良いみたいで、時々自分でも分からないような言葉を使ってくる。けれど、それに説得力が全く無い。
やること成すこと喋ること、人を小馬鹿にしてるようにしか思えず、だと言うのに一人では何も出来ない口だけ男。
誰かしっかりした人――例えばそう、学校でクラス委員をやっている自分とか――が付いていなければ、すぐに駄目になってしまう、手間のかかる弟。そんな感じ。
村の人達は皆何故か、タクの事を「昔とは違う」「根暗になってしまった」等と言うけれど、そんな事は無い。
何時頃からの付き合いだったかはハッキリしないし、物心が付く前の記憶はあやふやだ。
けれど彼女にとっては、タクは始めからタクだった。男の子の癖に頼りない、守ってあげなきゃいけない子であったのだ。
――アーニャは、『拓巳』を『不調』として認識してはいなかった。
彼がわんぱく小僧だった頃の記憶もなく、明るかった頃の記憶もなく。にも拘らずネギの事を知っていて、それに疑問を持っていなかった。
どんよりと濁った雰囲気で、気持ち悪い笑い声を上げる拓巳――ネギの事を、当然の事だと受け入れていたのだ。
それは幼さ故なのか、それともその単純で純粋な性格の所為なのか。はたまた、彼を思う何者かの所為だったのか。今となっては知る術は無い。
ただ、彼女はネギをネギのまま――拓巳のままで認識していた事だけは確かだった。
……だからこそ、彼女は現状に違和感を覚えていた。
彼女自身は何がどうとは言葉に出して説明は出来なかったけど、今の彼を取り巻く状況がおかしい事は何となく察していたのだ。
そして、それを何とかしようと頑張った。
それは、ネギを弟分と認識している姉貴分としての義務。年上である自分がやらなきゃいけない責務であると思い。
元よりガキ大将気質、まとめ役としての素質を持っていたのも災い(幸い? いや判断に困る)したのだろう。彼女は、それはもう燃えに燃えた。
周囲の大人達に言い縋り、彼の姉であるネカネや、村で一番偉い(と、思っている)スタンに相談したり。
何やら沈んでいるネギに発破をかけ、しっかりしなさいと何度も呼びかけたりもした。悪口を言う同級生を諌めたりもした。彼女はその小さな身体で、可能な限りの出来る事をしたのだ。
……しかし、結果は芳しくは無く。
幾ら彼女が彼は以前からああだった、変わっていないと伝えても、大人達は皆首を振るばかりで信じようとしてくれない。皆一様にして、「以前のネギに戻って欲しい」と呟くばかり。
それ以外の答えを認めようとせず、決まった型に――設定に、彼を押し込めようとして。
そうして、彼女の与り知らぬ所で発狂寸前まで錯乱していたネギは、自室と言う名の物置に引きこもって出て来なくなってしまったのである。
……最初こそは、そこまで追い詰められてしまった彼に同情し、村の住民たちへの憤りを強くした。
村人に抗議したり、彼らがネギに会いに行こうとするのを妨害したりもしたが――――ネギの行動を見ている内に、その怒りは彼自身に向けられる事となった。
元より友好的とは言い難かった態度だったが、ここ最近は更に悪化したらしく。我侭も言い放題の、好きなことをし放題。
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