第1章 IF end → onion HEAD?
―――あーけーろー……! あーけーなーさーいー……!!
……ばんばんと、扉を叩く音がする。
―――いーいーかーげーんーにー……! 出ーてーきーなーさーいーよー……!!
それと同時に投げかけられる、くぐもった声。
その甲高い声は小さな女の子の物で、キンキンと耳の中で跳ね回る。
声は扉一枚隔てているにも関わらず相当な音量で、さっきからずっと耳を手で塞いでいるのに押し付けられた掌の壁は全く効果を成していない。
ぎゅっと、更に強く掌を押し付けるけど……鼓膜に圧力が掛かって痛いだけで、声の大きさは然程変化せず。
机の上にあるPCから流れる音楽と合わさって、不協和音。
はっきり言って不快な事この上ない。
「…………うっせ、よ」
……そっと、小さく呟くけれど。
僕の放ったその声は、扉を叩く音と女の子の声に打ち消されて、何処にも届くことなく消滅する。
―――くっそ!! さっきから煩いんだよ。 少し黙れよ!!
……心の中では大声で叫べるのに、現実ではそれが中々出来ないのが情けない。
僕も少しは成長したと思ってたけど、本当のところはこんなもんだ。
キモオタはキモオタのまま、何にも変わっていやしない。
「……欝だ」
―――聞ーいーてーるーんーでーしょー……!? こーらーぁ……!!
と、そんな事を考えている間にも騒音は途切れることなく続いていく。
何度も、何度も、執拗に。
木製の扉を叩く音が、この四畳半にも満たない小さな部屋の中に響き渡る。
ばんばん
あーけーろー!
ばんばん
あーけーなーさーいー!!
ばんばん
あーけー……
「……っああもう!」
電球照明の無い、真っ暗な室内。
光源は机の上に置かれた型遅れのノートPC……そのディスプレイから発せられる僅かな光のみだ。
僕はその光源に向き直り、机の引き出しを開けて中身を乱雑な手つきで漁る。
そしてこれまたPCと同じく型遅れ、何世代も前の無駄に巨大なヘッドフォンを取り出し、両耳に装着。
PCとは繋げられない。
一応音楽再生機能は付いているけど、ヘッドフォンの方が規格に合っていないんだ。
CDプレーヤーにも繋げられないし、もはやロートル乙としか言いようが無い。
……しかし耳をすっぽり覆うことが出来るため、耳栓としては中々に優秀。
本来の使い方ではないけどね。
「アーアーキコエナーイ……ふひひ」
女の子の声と、扉を叩く音が比べ物にならないくらい小さくなる。
完全に消えたわけではないけれど、それでもまぁ何とか無視できるレベル。
……最初からこうすれば良かった。
僕はそのまま、光の方へ―――PCの画面へと目を向けた。
そこに映っていたのは、とあるオンラインゲームのプレイ画面。
……残念なことにエンスーではなく、別のゲームだけど。
エンスーの世界は美麗な3Dグラフィックで表現されていたけど、このゲームの世界はチープな2Dで表現されている。……しかもキャラクターは全て二頭身だ。
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