ハーメルン
篠ノ之箒は想い人の夢を見るか
IS学園

 そのまま中へと入っていき、一番奥の部屋へと私たちは足を踏み入れる。そこには長テーブルを挟んで、ソファが二つ置かれていた。
 どうやら普段は進路相談など、面談の時に使う部屋のようである。

「どうした、お前たちも早く座れ」

 手早く奥のほうのソファに座った千冬さんに促されて、私たちは手前のほうのソファに腰掛ける。いい素材を使っているのか、ふわりとした心地よい触感が尻を包み込んだ。

「まずは篠ノ之。初めてあの男や無人機と戦った温泉宿での一件から今回の戦闘まで、お前の身に起こったことを全て話してもらう。いいな?」
「はい。では、あの夜の戦いから……」

 パソコンを鞄から取り出しながら千冬さんは私に尋ねたので、私は憶えていいる限り全ての事をなるべく詳細に話した。

「――と、いうので全部です」
「……なるほど、な。結局のところ、お前たちも敵が何者かはよく分からないのか……」
「はい……。なにせ向こうからの襲撃という形ばかりでしたし、敵は中々に用心深い面がありますから」

 二十分もかけて私が話し終えると、千冬さんは顎に右手を当て、左手でメモをとった紙を眺めつつ私に問う。だが、私としてもこう返すしか出来ないのが現状だ。

「ほんっと、どこ行っても襲撃ばっかでやんなっちゃうわよね……」

 私の返答に付け足す形で、鈴がぼやく。最初の温泉街の事件からこっち、ずっと私とともに襲撃に付き合わされた――しかも香港では人質になり、さっきの戦闘まで丸腰だったのだ。文句を口にするのだって無理もないだろう。

「気持ちは分からんでもないが、ぼやいていても仕方ない。……さて、まず話すべきは敵の白いIS――あの男性操縦者についてだな。篠ノ之、お前の打鉄の戦闘映像をもう一度見せてくれ。部分展開は私が許可する」

 やはり、真っ先に考えなければならないのはそれだろうな……。

 どう考えてもそこが一番の謎であり、一連の騒ぎの中心であるのは間違いない。
 私は頷くと、頭部のみを部分展開、パソコンに向けてさっきのデータを送信する。千冬さんはその動画を神妙な顔つきで一通り眺め終えると、結論を出した。

「思ったとおり、だな……。篠ノ之。この男のISが使っている刀から発生している光の刃、あれは零落白夜でほぼ間違いない」
「……っ!」

 予想はしていた。
 だが、いざ本来の使用者の口から断定されたとなると思わず絶句し、何も言えなくなってしまう。

「温泉宿やイギリスでの事件についてのニュースを最初見た時は、正直言って私も信じられなかったよ。この世に二つとない筈の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が、被っているなんて、な」
「えっ……それってどういう……」

 千冬さんの言葉に反応したのは、この中で最もISに関する知識の浅い鈴だった。
 もっとも専用機の知識――それも単一仕様能力などの少し踏み込んだ部分は入学してから習う範囲のため、仕方ないといえばそうなのだが。

「いいですか、鈴さん。単一仕様能力というものはコアと操縦者の密接なシンクロによって開花する、唯一無二の能力を指しますの。つまり、たとえ家族間であっても同じ能力が発現するなどというのは、ありえないんですわ」

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