嵐
いかに襲撃者が常識の埒外の存在だといえど、さすがにこれでは手出しは出来ないはずだ。
「まぁ、ここにいれば安心だろうな。……そういえば、私はどれくらい眠っていたんだ?」
「おおよそ三時間くらい、といったところでしょうか」
「そうか、ありがとう」
急に気になったので、二人に尋ねてみる。思ったよりかは短いというのが正直な感想だった。
「あんたが眠っている間、あたしも色々と大変だったんだからね? 専用機の登録だとか言われてやったら多い書類の山にサインしなきゃいけなかったり、電話帳みたいな分厚さのマニュアルは渡されるし……はぁ」
「ははは……それは災難だったな」
早口でまくし立ててからため息を吐く鈴に、私は曖昧に笑ってそう返答する。
私は二年前に専用機持ちになったので、もちろんながら経験済みだ。ひどく大変な作業として記憶に残っている。
しかも鈴の場合、専用機――甲龍の出自が不明である。
マニュアルはともかく、書類に関しては私たち代表候補生の専用機持ちとは比べ物にならない分量を書かされたにちがいない。
「わたくしは整備室をお借りしてブルー・ティアーズの修理と、それから本国へあの機体に関する報告を」
サイレント・ゼフィルスはイギリスが現在進行形で開発しているISだ。なのに出自は不明ながらも、完成形として目の前に現れた。報告するのは当然といえる。
セシリアはセシリアで、かなり大変だったみたいだな……。
「篠ノ之、起きたか……それに三人ともここにいたか。ちょうどいい」
またもや扉が開く音がし、千冬さんが室内に入ってくる。
「千冬さん……どうしました?」
「ああいや、急に追加で決まったことがあるそうでな。伝言に来た」
追加、か。どんな内容なのだろうか?
皆目検討がつかなかったので、千冬さんの口が開くのをじっと待つ。
「お前たちのクラスの担任だがな。昨年までイタリア代表を務めていたアリーシャ・ジョセスターフとなるそうだ……全くあいつめ、いつの間に教員免許なんかを」
「えっ……アリーシャって、あのテンペスタのアーリィ!?」
私が驚いて声を出せない間に、真っ先に反応したのは鈴だった。
だが、その驚きはただ単に「有名人が自分の担任になる」というだけのものではない。
元イタリア国家代表、アリーシャ・ジョセスターフ――通称「嵐のアーリィ」。
数えるほどしか存在しない二次移行――自己進化の一種だ――を完了させたIS「テンペスタ」を駆り、二度に渡る世界大会で縦横無尽の活躍をした女性。
どちらの大会でも織斑千冬に唯一接戦したことから、全世界的にファンは多かった――というか、鈴なんかは大ファンでグッズも集めていた。
[9]前 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/5
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク