入学
「雪片……」
500ミリリットルのボトルを一気に半分以上飲み干したラウラは、言葉を紡ぎつつ窓際のソファに腰掛ける。それはあの日、彼女を斬ろうとした刀――織斑千冬の持つ、一撃必殺の光剣の名であった。
(ブリュンヒルデの祖国、日本……。何か手がかりがつかめると、いいのだが)
正面の窓から見える景色を眺めつつ、ラウラはぼんやりと考えを巡らせる。あんな悪夢を見た後というだけあって、二度寝する気にはなれなかった。
眼前には夜中でも煌々と明かりの灯されている空港と、天高く輝く月くらいしか見えるものはない。
「あの日と同じ三日月、か」
コップを傾けつつ、ラウラはそっと口にする。
こんな日にあの日と同じ月の形で、しかもあの夢を見てしまう。
そのことにラウラは、どこか運命じみたものを感じずにはいられなかった。
「まぁ、明日になれば何か分かるか……あの女と、顔を合わせられるのだから」
そう口にしてから、ラウラは残りの水を一気に飲み干すと、部屋の隅に掛けてあった真新しい制服を一瞥する。それは本国の命令で送り込まれた、明日から通うことになる学園の制服であった。
学園にはラウラと同じく、あの男と顔を合わせたことのある少女も入学する予定となっていた。
恐らく何か、聞きだせるはずだ。
本来の目的とは違うものの、彼女の中ではそれが主な目的となっている。
「待っていろ……必ず手がかりを、つかんでみせる」
ラウラは学園のある方角に視線を向けると、鋼鉄のごとき決意を感じさせる声音で口にした……。
◆◆◆
春休みに起こった一連の事件。その最後を飾ったサイレント・ゼフィルスの襲撃から、早くも二週間。ついに私たちは、晴れてIS学園に入学することになった。
入学式を終えた私たちは現在、三人で割り当てられたクラスへと向かっていた。
幸いなことに、私たちは全員一組である。幸先のいいスタートを切れて心も踊る。なにせ春休みは散々だったからな……。
「晴れてよかったわね、箒」
私の席――窓際の最前列である――の近くに立っていた鈴が窓の外に視線を向けると、爽やかな声音で言う。確かに二日続いた雨は止んで、雲一つない快晴が広がっていた。絶好の入学式日和だといえるだろう。
「嵐の前の静けさでないと、いいんだがな」
「箒さん、嵐って……。こんな学校の中で、そんな大事件が起こるとはとても思えませんが」
やはり私の席に集合していたセシリアから指摘が入る。
確かにIS保有数は世界最大規模であり、戦闘力に関しては他に類を見ない施設だ。そんな簡単に事が起こるとはとても思えない。だが、過信は禁物だとも思えてならないのだ……。
「まぁまぁセシリア。嵐なら、うちの教室で待っているのは確定してるわよ」
そんな私の心配をよそに、鈴が軽口を飛ばす。この二人がイギリスで出会ってからまだ一ヶ月足らずだが、こんなやり取りが出来る程度には仲は良くなっていた。
元々誰とでも打ち解けやすい性格の鈴だったが、ここまで近しい距離になった相手はいなかったんじゃないだろうか? 下手したら私より早く、しかも深く仲が進展しているのかもしれない。
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