ハーメルン
篠ノ之箒は想い人の夢を見るか
香港事変・後


「ありがとうございます姉さん。それでは!」

 急いでタクシーに乗り込むと、繁華街を抜けて目的地へと一直線に進んでいった。

◆◆◆

 タクシーを降りてすぐの場所にある門の先には、広大な西洋風の墓地が広がっている。
 その奥にある小さな丘の上に、窮奇を纏った森 玲夜が座っているのが見えた。

 鈴は、どこだ……!?

 慌てて探したが、鈴の姿はすぐに見つけることが出来た。玲夜の背後に立っている一本の大きな木に縄で縛り付けられている。
 気絶させられているのか、その瞳は閉じていた。

「探したぞ、森玲夜!」

 声を張り上げて玲夜に聞こえるように口にしながら、同時に懐の銀色の鈴に意識を集中。打鉄を展開し纏う。

「私の名前を知っている……まぁ、どうでもいい事か」

 ぼそぼそと呟きながら玲夜は立ち上がると、その手に大型の戟を展開。数回頭上でぐるぐると振り回してから矛先を私に向ける。

「葵ッ!」

 玲夜が構え終える前に、私も近接ブレード「葵」の名をコールしながら展開。そのまま両手で構えてから切っ先を玲夜に向け、接近に備える。

 さて、どう出る……?

 窮奇の外見からして武装構成は打鉄とほぼ同じだと私は考えている。
 基本的に肩に近い部位にあるシールドで攻撃を防ぎ、強力な威力を誇る大型の近接武装で一気にシールド・エネルギーを削る戦術を得意にしているに違いない。
 つまり一撃とはいかないまでも、少ない手数で勝負は決まるといっていい。

 したがって私たちはお互い不用意に動かず、そのままの状態で睨み合いが続くこととなる。
 射撃武器で威嚇するのが、こういったときの常である。しかし私は鈴に直撃するのを恐れているために飛び道具は一切使えない。
 玲夜も武器が片手では振るえないものであるため、銃を展開するそぶりは見せなかった。

 隙は、ないか……?

 じっと凝視し、一瞬のほころびを見つけようと試みるが、向こうも相当な手練。そう簡単に隙など見つかるはずもない。
 玲夜も同じなのだろう、ただでさえ鋭い目をさらに鋭くして、私をにらみつけていた。
 その間に冷たい夜風が何度も私たちの間を吹きぬけ、私の身体を冷やす。

 勝負が始まったのは、七回目に夜風が吹いた時だった。
 どこかから飛んできたであろう新聞紙が宙に舞い、私と玲夜の目線の高さを通り過ぎる。
 一瞬視界が奪われた途端、私はスラスターを全力噴射して窮奇に迫る。

 とうぜん玲夜も同じ事を考えているのだろう。私のスタートと同時に、少し離れた位置からもスラスターの駆動音が聞こえてきた。

「なっ……!」

 ほぼ同時にスタート――正確には私のほうが少し早いのに、玲夜は私よりも遥かに間合いを詰めていた。そのため、思わず驚愕の声を漏らしてしまう。
 なぜ、こんなにも差がついたのか。その理由はすぐに分かった。

 ――瞬時加速。

 そう呼ばれる高等技能を使い、奴は私よりもすばやく移動することが出来たのだ。
 まさか、そんな技術までもっていたとは……!

「きぇぇぇ!」

 耳をつんざくほどの大きな声で玲夜は叫ぶと手にした戟を持ち上げ、すぐさま振り下ろす。

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