私達の居場所
身体の持ち主の生まれ故郷の、駅前のホテル。
私はその一室で蘇――否、生まれた。
その際、初めて知ったものはふたつ。
ひとつは偽骸虚兵としての必要な知識。戦いから一式白夜の世話までの全て。
もうひとつは、偽骸虚兵が偽骸虚兵として生きるために必要なモノ――身体の持ち主の、死の直前のイメージ。
これらだけで、自我の形成を完了させていく。
その、筈だった。
「――ッ!?」
だが、私は直後。ベッドの上で悶絶する羽目になってしまった。
原因は、本来なら必要のない筈のものまで流し込まれていったためだった。
肉体が、まだ別の魂の器だった十六年の月日の間に覚えてしまっていたモノ。
蓄積され、刻み付けられた――生前の、鏡ナギの記憶。
それが私の頭の中に流し込まれ、今の記憶と統合した瞬間……ずっと収まらない頭痛が、はじまった。
「うぐっ……どう、して?」
どうして?
たった四文字しか、私の頭の中にはなかった。
だが直後、それは複数の恨み言と問いかけへと細分化されていく。生前の記憶と今の苦痛がそうさせたのだ。
どうして、守ってくれなかったんだ?
どうして、流れ込んでくる記憶を拒否できない? 他人のものとして鼻で笑えない!?
どうして、死体人形になる前に、この身体を壊してくれなかった!?
疑問は痛みを加速させ、やがてベッド脇に嘔吐する頃には憎悪へと変わっていった。
偽骸虚兵の本能の賜物なのか、自分の意志でなのかは分からない。
だけど、私の中では後者であると決めた――せめてこれくらいは、私という個人が決めた「モノ」として持っておきたかった。
「痛がってるってェ事は、つまり、だ。成功ってことでいいのか?」
そんな時だった。
ドアが開く音と同時に悪辣さが音という形を取った、そんな声が入口のほうから聞こえてくる。
この声は私も――この身体も知っている。二人目の男性操縦者のものだ。
ここに居るのも、尋ねてくるのも何の不思議もありはしない。
「そのようです。無事、身体の記憶の継承に成功したかと」
けれども。
続けざまに聞こえてきた、無機質で抑揚のない、女性の声。
それを聞いた途端、時が止まったかのような感覚がした。
だって、その声はずっと昔から、この身体が知っている。
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