ハーメルン
銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(新版)
第1話:逃亡者の末路 新帝国暦50年(宇宙暦848年)~??? ハイネセンポリス~???

 新帝国暦五〇年、宇宙暦で言うと八四八年の八月一五日、惑星ハイネセンの星都ハイネセンポリスの街角。手押し車に積み込んだ巨大スピーカーから流れる大音声の旧自由惑星同盟国歌「自由の旗、自由の民」をバックミュージックに、旧自由惑星同盟軍の軍服を着用した男達が車道をのし歩いている。彼らは、自由惑星同盟復活と反ローエングラム朝を唱える極右暴力集団「ヤン・ウェンリー聖戦旅団」のメンバーだった。

「帝国はバーラトから出て行け!」
「祖国を取り戻すぞ!」
「自由惑星同盟万歳!」
「ヤン・ウェンリー提督万歳」
「アーレ・ハイネセン万歳!」

 寂れきった街角に怒声が響く。ハイネセンポリスはかつて自由と民主主義の総本山と謳われた街であるが、今ではこのような集団の闊歩するところとなった。

 宇宙暦八〇〇年、ローエングラム朝銀河帝国が自由惑星同盟を併合すると、ハイネセンポリスは混乱のるつぼに叩き込まれた。地球教団や戦闘的民主主義者連盟によるテロ、ハイネセン大火、新領土総督ロイエンタール元帥の反乱、帝国軍務尚書オーベルシュタイン元帥による旧同盟要人の一斉検挙「オーベルシュタインの草刈り」、元フェザーン自治領主アドリアン・ルビンスキーが起こした同時多発爆弾テロ「ルビンスキーの火祭り」などにより、大きな被害を被った。

 八〇一年七月、ハイネセンポリスが属するバーラト星系は再び共和主義者の手に戻った。共和主義勢力「イゼルローン共和政府」がシヴァ星域で帝国軍の大軍と戦い、帝国軍総旗艦ブリュンヒルトに突入するという戦果をあげた。ラインハルト帝はイゼルローン共和政府の力量を認め、バーラト星系を与えた。バーラト星系行政区はバーラト自治区となり、ハイネセンポリスがその首都となったのである。

 バーラトを取り戻したイゼルローン共和政府が自治政府を主導することとなった。フレデリカ・グリーンヒル・ヤン共和政府主席が自治政府議長、アレックス・キャゼルヌ軍事局長が自治領警備隊幕僚総監、ダスティ・アッテンボロー革命軍宇宙艦隊総司令官が自治領警備艦隊総司令官に就任した。ヘラルド・マリノ宇宙艦隊副司令官、サンジャイ・ラオ宇宙艦隊参謀長、カスパー・リンツ薔薇の騎士連隊長、スーン・スール宇宙艦隊作戦主任参謀らも然るべき地位に就いた。彼らは旧同盟軍最高の名将ヤン・ウェンリーの指揮下で戦い、帝国軍を打ち破った英雄でもある。

 同盟末期、政府から距離を置いていた良識派も自治政府に加わった。ホワン・ルイ元同盟人的資源委員長が自治政府首相、シドニー・シトレ元同盟軍統合作戦本部長が副首相兼安全保障相、マレーラ・マグリーニ元エドワーズ委員会委員長が市民安全相、セダ・ギュルセル元反戦市民連合下院議員が対外関係相に就任した。ネイサン・クブルスリー元同盟軍統合作戦本部長が安全保障省次官、ビジアス・アドーラ元首都政庁参事官が市民安全省次官、クロード・モンテイユ元同盟財政委員会国庫課長が財務省次官、グレアム・エバート・ノエルベーカー元最高評議会書記局二等書記官が首相官房副長官に起用された。

 ユリアン・ミンツ革命軍総司令官、オリビエ・ポプラン革命軍空戦隊総監、エリック・ムライ元ヤン艦隊参謀長らが不参加を表明したものの、良識派オールスターといっていい陣容である。人々は民主主義復興の希望に胸を躍らせた。イゼルローン共和政府残党と旧同盟良識派からなる与党「八月党」は、第一回総選挙で全議席の八割を獲得するという大勝利を収めた。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/9

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析