第十三話
しかし……やっちゃったな。あそこで浸透掌を出さなくてもよかった。いや、私を身体能力だけの素人と油断していたネテロ相手にボールを奪うのに、そもそも柳葉揺らしすら必要なかっただろう。それなのにどうしてそんなことをしてしまったのか?
……やっぱり、ネテロと久しぶりに会ったからだな、きっと。リュウショウの時代において最も楽しいひと時がネテロとの勝負の最中だったからね。精神は変われど、記憶や思い出は変わらないからな……。
けどどうしよう。あれではネテロに確実に怪しまれるな。なにせ風間流において浸透掌も柳葉揺らしも殆ど使い手がいない(現在は増えているかもしれないが)はず。浸透掌に至ってはリィーナだけに伝授した禁術。見た目はただの掌底に見えるから分かりにくいが……。
ネテロのことだ。あれが浸透掌だと気付いたことだろう。そうじゃなきゃ【百式観音】による迎撃なんてするはずがない……しないよね? 今ネテロは私が何者かを考えていることだろう。リュウショウの生まれ変わりという答えに行き着く可能性も有り得る……それはまずい。
……? まずい、のかな? 確かに転生なんて普通有り得ないし、自分から言っても信じてもらえず狂人扱いされるだけだろう。だからネテロには言えなかった。でもアイツが自分から気付くのなら問題ないんじゃ……?
いや、でも、拒絶されるかもしれないし、ネテロに拒絶されるのはかなり堪える……やっぱりばれない様にした方がいいのか? けどもう色々やっちゃったしな……。
……ええい! こうなったらなるようになれだ! ばれたらばれた時のこと、ばれてなかったらそれはそれで良しだ!
ふう。考え事をしている間に3次試験会場に到着したみたいだ。結局一睡もしてないよ。
天高くそびえる塔。トリックタワーという塔だ。ここが3次試験会場か。凶悪な犯罪者なんかを収容する刑務所になってるらしいな。
試験内容は72時間以内に生きて下まで降りること、か。下に降りる階段とかはないし、隠し扉でもあるのかな? ……中の囚人が脱獄出来るような秘密の通路は流石にないよな?
さて、どうやって降りようか。
あ、壁を直接降りてる人がいるよ。すごいな、もし落ちたら死んじゃうよ?
「うわすげ~」
「もうあんなに降りてる」
「……でも大丈夫ですかね。向こうからなんか妙なのが来てますが」
「あ、本当だ」
「うわぁああぁあ!!!」
あ、怪鳥に囲まれた。このままじゃ殺されちゃうなあの人。仕方ない。
「ふっ」
怪鳥に向けて石を投げつける。あの鳥気持ち悪いな……お、全弾命中。
「今の内に上に戻ってください!」
「す、すまない!」
どうにか戻って来られたか。焦って落ちたりしないか心配だったよ。無事で何より。
「た、助かった。恩に着るぜあんた……」
「別にいいですよ。試験頑張ってくださいね」
「ああ、あんたも頑張ってくれよ。オレに出来る事があるなら何でも言ってくれ。この借りは必ず返させてもらうぜ」
礼を述べてロッククライマーの人は別の道を探しにいった。別の道で死んでしまうかもしれないけど、そこまでは私も面倒は見切れない。今のもただの偽善だしね。自己満足みたいなものさ。
「……なああんた」
「あんたじゃありません、アイシャです。もう二度目ですよこのやり取り」
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