第十四話
…………徐々に意識が浮上してくる。禅に没頭すると完全に意識が飛んでしまう。
飛ぶと言うより己の中に埋没すると言った方がいいかな。精神統一の仕方によっては意識が拡がって世界と一体になるような感覚に陥る事もある。我が師リュウゼンより精神統一に良いと促されて始めたものだが、結構気に入っている。特に意識が徐々に戻ってくる感覚は心地良さも伴う。
意識が戻ってくる中、ふとリュウショウの時の事を思い出す。思い出すのはもちろんネテロとの闘いの場面だ。
アイツとの闘いの一時は至福だった。なにせ私が気兼ねなく全力を出せる相手なのだから。リュウショウの時、どれほど鍛錬を積み、技の研鑽を重ねようとも、それを全力で揮える相手はいなかった。
ただの投げならいい。手加減すればいいだけだ。だが柔術は当たり前だが武術。ゆえに相手を壊す技も多々ある。全力で放てば相手の身体を壊し、二度と武術が出来ない身体にしてしまうどころか、命を奪ってしまうことすらある。
だから道場での鍛錬はもっぱら危険性のない合気術が主だった。
ネテロに会えたのは僥倖だったな。アイツならどれほど危険な技を仕掛けようとも、見切り、躱し、受け流し、逸らし、いなし、耐え抜いてくれた。壊れる危惧がなかったので大いに全力をぶつけれたものだ……。
今思い出しているのはネテロに竜巻落としを仕掛けている場面か……。
相手の手首を捩り、かつ肘関節を壊しながら螺旋状に対象を宙に投げる、空中で逆さになっているところを踏み込みつつ体重を乗せた靠撃(こうげき:肩や背中を使用した体当たり)、これにより相手の体勢を崩し反撃を防ぐ。靠撃にダメージは期待していない。そのまま壊れていない腕を受け身に使用できないよう固定、逆さになった相手の顎にオーラを込めた掌底を叩き込む。そして自身の体重を加えて地面に勢いよく叩きつける。
見事にネテロは地面へと突き刺さった。手応えばっちりだ。しばらく起き上がれまい!
……はて? 確かこの技はネテロに防がれたような気が……? それ以前に【百式観音】による迎撃を喰らったはず……。それなのにどうして技が成功した場面が思い出せているんだ? 思い出すも何も、一度もネテロには通用しなかった。なのにこの抜群の手応えはいったい……?
あ、意識が、完全に戻ってきた……ゆっくりと眼を開ける。そして光とともに私の眼に入ってきたのは――!
……なぜか床から下半身が生えている異常な光景がありました。こ、これは一体どういうことだ? この人はだれ? 何かのパフォーマンスだろうか? ヨガ的な修行かもしれない。
ははは。修行なら邪魔しちゃいけないね。さ、ここから離れるとしよう、うん。
……うん。やっぱり私が原因だよね。現実逃避はやめるとしよう……。
や、やっちまったぁぁぁ!! な、なんてことを……! これが試合や闘いの結果なら致し方ないかもしれないけど、ぼけてやってしまうなんて!
ああ、師に、母に合わせる顔がない……!
……ん? お、おお! 体からオーラが漏れている! つまりこの人は死んでいない!
早く応急処置をしたら助かるかもしれない。そうと分かればこの人を地面から抜かなきゃ! そう思いながら私は焦りつつも慎重に床に埋まってしまった人を引き抜いた。
……後に抜かなきゃ良かったと後悔した私は悪くないと思います。
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